SmartHRから得た5つの学び

2021年6月8日、支援先のSmartHRが156億円の調達を発表し、彼らはユニコーン企業の一員となった。

思い返せば代表の宮田さんと最初会ったのは2015年。起業して2年ほど経った頃、SmartHRの前身 KUFUで彼らは全く別のビジネスアイディアを形にすべく奮闘していた。そしてその年の春、彼らがビジネスアイデアを「SmartHR」にピボットをしたタイミングで出資させてもらうこととなった。そこから快進的な成長を続けて、直近の発表ではARR 45億円、年度成長率100%+以上というグローバルな視点で見てもトップクラスの成長曲線を描いている。

SmartHRへ最初に出資してから6年が経つが、僕自身たくさんの刺激を受け、学びを得てきた。SmartHRに投資をしていなかったら、今の僕のSaaSに対する愛とコミットメントはなかっただろうと言っても過言ではない。

今回は、SaaS業界のレジェンドになりつつあるSmartHRから学んだ5つのことについて書いていきたいと思う。

組織がプロダクトと戦略の一部

SmartHRから学んだことの中で一番みんなにも伝えたいと思うポイントは、『プロダクトと会社の戦略の一部として組織が存在している』ということ。

お客様目線で考えることを徹底するカルチャーが、強いプロダクトとカスタマーサクセスを実現し、”異常”に低い解約率につながっている。SmartHRのユーザーがサービスの使いやすさについてツイートしているのを見たことがある人も多いのではないだろうか。この圧倒的なユーザー体験はSmartHRにとって強力な差別化要素となっているわけだが、そのうしろにはSmartHR、そしてチームを支え続けるカルチャーが存在している。

SmartHRが戦略を上手に実行できている重要な要素のもう1つは、スピードだ。「早いほうがカッコイイ」というバリューを掲げ、とにかく組織全体のスピード感が速い。

2020年はじめに日本で新型コロナウィルスの感染者が増加してしまったとき。SmartHRがすぐさまリモートワークを意識した広告コピーに切り替え、国内初のZoom撮影したテレビCMを3週間で制作、放映した。コロナ禍で必要な新機能を開発し、需要が高まっている業種を探し出し、応援キャンペーンを実行するというスピーディな動きは、僕にとっても衝撃的だった。

自分の会社の強みは何か?どう差別化していくのか?どんな戦略を実行するのか?

この3つの問いに対しての答えを明確にして、実行に移すための適正な組織とカルチャーを築きあげられたことが、SmartHRがユニコーン企業へと成長できた大きな要因だと僕は思う。

レイヤーを重ね続ける

SmartHRは、新しい顧客セグメントの発掘や顧客獲得戦略への取り組み、オペレーションの改善を重ね続けた。

ローンチ当初は中小規模のIT企業が主な顧客層だったのが、その後対象顧客セグメントを1000人、1万人規模の企業へと展開し、さらに飲食業や製造業などの業界セグメントも広げていった。獲得戦略においても、インバウンドのセルフサーブ型を中心にスタートしたが、インサイドセールスチームを構築したり、マスマーケティングやアウトバウンドなど施策を増やしている。

PMFを達成するまでは、1つのセグメントの顧客獲得に集中して戦略を実行すべきだ。SmartHRは、PMFを達成後、継続的にそのレイヤーを重ねていったことで、非常に高い成長率を実現できている。(参考記事:レイヤーで考えるSaaSの経営と戦略

権限移譲と自立駆動の重要性

もし、僕が宮田さんにスーパーヒーローの名前を付けるとしたら「Super Delegation Man (スーパー権限移譲マン)」にすると思う。僕は、このパワーは宮田さんの特別な力だと思う。とにかく自分より優秀な人を採用して巻き込んでいく力がある。そして権限移譲を進めていくスピードと、その成功確率が異常に高いのだ。打ち手の数を増やすスピード、そして組織や事業課題を解決速度を”超高速”にできている究極の秘訣なのではないだろうか。

限界に挑戦する

SmartHRが、固定概念に囚われることなく挑戦し続けられている理由を語るには、経営陣メンバーは必要不可欠な存在だ。今の成長に大きく寄与している。

常により良く、より高い場所を目指す姿勢。特に数字まわりに対する目標はとても野心的である。現状の引き延ばしで来年の目標数値を決めるのではなく「グローバルでもトップクラスの急成長曲線を達成するにはどうしたら良いのか」を念頭に置いて、打ち手や戦略、採用計画を練り上げている。

彼らのこの姿勢は、事業の成長ポテンシャルや限界というものは、あらかじめ決められてることなどではなく、自分で決めるものなのだと言うことを僕に気づかせてくれた。(参考記事:ストレッチ目標を実現する鍵は「達成可能性70%」にある

正しくやれば正しく成長する。これがSaaSだ。

最後にみんなに共有したいポイント。それは「SaaSは、正しくやれば正しく成長する」ということ。

お客様に寄り添ったプロダクトを作り、カスタマーサクセスを組織全体に浸透させる。優秀な人を巻き込んで、戦略に紐づいた強い組織を作る。レイヤーを積み上げて打ち手を増やす。そして野心的になる。

これは決して簡単なことではない。でも、不可能ではない。

SmartHRのような素晴らしいスタートアップが誕生したことで、正しく成長できるSaaSのプレイブックがこの業界に出来上がりつつある。(参考サイト: ALL STAR SAAS PLAYBOOK

これが僕がとくにみんなに伝えたい〈SmartHRから学んだ5つのポイント〉だ。

他にも書ききれないほどの学びが沢山あったし、今も現在進行形で毎日学びや刺激をくれている。本当に感謝しかない。『SmartHR』という物語は、まだまだ始まったばかり。企業も人もまだまだ伸び盛りと言って良いだろう。「いつの日か、デカコーン企業(時価総額1兆円以上)になる。」そんな夢を描きながら、これからも一緒に成長できるのがとても楽しみだ。

まだまだ旅路は続くけれど、ここで一回伝えたい。

SmartHR、ユニコーン企業入りおめでとう!
そしてこの旅に僕も参加させてくれたこと、本当にありがとう。

そして最後に。日本のSaaS業界にとって、この動きはまだまだ序盤だ。これから数多くのSaaSユニコーンが生まれ、日本を支える存在になってくれると僕は信じている。

(編集してくれたkobajenneに感謝)


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トップダウンなのか、ボトムアップなのか?SaaSのGTM(市場戦略)の考え方

(FORTUNE Global Forum)

プロダクト・フィットを達成したSaaS企業が、次に考えるべきは『GTM』だ。

GTMとは『Go-To-Market』の略。市場を獲得するための戦略のことで、SaaSでは「トップダウン」「ハイブリッド」「ボトムアップ」の3つの型に大きく分けることができる。

トップダウンは、CXOレベルでの導入意識決定が必要なケースが多く、ピンポイントでのマーケティング戦略や、フィールドセールスによる長いサイクルの対面営業プロセスを要する。カスタマーサクセスの面でも、導入時の訪問支援サポートや個別のアドバイスをするようなハイタッチな手法になる。このトップダウン戦略を採用している企業例としては、Veeva、Workday、Zuoraなどが挙げられる。

ハイブリッドは、比較的ターゲティング範囲が狭く、インサイドセールスで完結できる場合もあれば、フィールドセールスも絡めたハイブリッドなセールス戦略が必要になる場合もある。カスタマーサクセスも、トップダウンよりは比較的ライトな形式になる。ZendeskやSalesforceなどが、ハイブリッド型からスタートしている。

ボトムアップは、対象者が広範囲なためマスに近いマーケティング戦略が適用できる。いち従業員が一人、または数名で使い始められるプロダクトやサービスで、セルフサーブ型でユーザーオンボーディングが完結できる。また、バイラル要素があり、営業サイクルも短い。Zoom、Slack、Twilioなどが例として挙げられる。

GTMを考えるときの要素

では実際自分の提供しているSaaSは、どのGTMの型に当てはめるべきなのか。それを見極めるためには、以下の視点で考えてみると良いだろう。

プロダクトの複雑性: SaaSプロダクトの価値や機能の利便性について、人が対面で説明する必要がある場合は、ハイブリッド、またはトップダウンの戦略が必要になる。一方、ウェブを通してすぐに理解してもらえるものであればボトムアップの戦略が通用する。

また、プロダクトを使いこなすために長い期間や手厚いサポートやトレーニングを要する場合は、トップダウン型である必要があり、比較的ライトなトレーニングで済むのであれば、ハイブリッド型を適用できる。登録したら人が関与すること無く、すぐに使い始められるプロダクトならば、ボトムアップ型の戦略を取るのが最適だ。

デリバリー:ユーザーが、一人でそのSaaSを導入することができるのか。それとも複数人のコミットや調整が必要なものなのか。関わる人の数が多ければ多いほど、トップダウン型の戦略を取る必要性が高まる。導入までの時間をあまり取らないものは、ボトムアップ型が通用する。

価格:プロダクトやサービスの価格によって、決裁者が変わる。そして、この決裁者が誰になるのかによって取るべき戦略が変わる。いち従業員が申請するだけで導入できるような価格帯なのか。または部署がもつ予算を使えば導入できるのか。はたまた幹部層が管理する予算を取らなくてはならないのか。大きな予算が必要になるほど、ランクの高い決裁者によって導入可否が判断されるため、トップダウン型の戦略を取る必要がある。

この3つの視点で考えてみると、自分のSaaSがどのGTMの型に当てはまるのかが見えてくるはずだ。プロダクトがシンプルで、デリバリーも早く、価格が低いのであればボトムアップ型。非常に複雑で、デリバリー期間も長く、そして高単価なのであれば、基本的にはトップダウン型の戦略が必要になる。一方で、要素に偏りがない場合は、ハイブリッド型の戦略になる。

戦略と戦術の具体化

今回はGTMの概念をシンプル伝えるために大きくまとめでみたが、実際にGTMの戦略を決めるときは、マーケティング、セールス、そしてカスタマーサクセスのプランを具体的な戦術にまで落とし込んで作っていく。バイヤーのペルソナ、セールスのファネルやテクニック、バリューの伝え方など、細かく落とし込むことで解像度の高いGTM戦略が完成する。

GTMは常に進化していく。

ただし、GTMは一度決めて終わるものでなく常に変化していくもの。プロダクトの成熟度や競争環境、顧客のニーズ、そして会社のフェーズで変わるからだ。例えば、BoxやShopifyも、初期はボトムアップのGTMからスタートしていたが、その後ハイブリッドやトップダウンのGTMへと戦略の展開方法を変えている。

(編集してくれたkobajenneに感謝)

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SaaS企業が勝つために必要なバリュー


Photo by: Malcolm Macgregor

企業のバリュー(価値観)は、会社の文化を作り上げるうえでの重要な要素であり、DNAであり、経営層からマネージャー、そして社員それぞれの判断基準や行動指針にもなる。正しいバリューの設定と運用をすることで、掲げたミッションを達成する力強い会社を作ることができる。

今回は、代表的なSaaS企業のバリューをいくつか紹介しながら、僕が思う「SaaS企業が勝つために必要なバリュー」について書いていこうと思う。

Salesforceの4つのバリュー

まずは、「SaaSの王者」であるSalesforceの4つのバリューを見てみよう。

信頼 – 社員、顧客、アドバイザーなど、Salesforceに関わるすべての人達と透明性を持ったコミュニケーションをとり、関係を大切に築いていく。

カスタマーサクセス – Salesforceの成功は、顧客の成功があってこそ。顧客と共に成功し、成長し続ける。

イノベーション – テクノロジーを通じて新たな価値を提供するだけでなく、社員一人一人がイノベーションというマインドセットを持つべきだ。

平等 – ダイバーシティーは、イノベーションとクリエイティビティーの促進に通ずるものと信じている。その人のバックグラウンドを尊重し、共に働ける環境づくりを大事にする。

Hubspotの7つのバリュー

続いてはHubspotの7つのバリュー(これは、この128ページもある英語版資料の中から一部を抜粋、要約したもの)。

ミッションとメトリックス – 私たちは、中小企業を愛している。彼らを成功に導くことが私たちのミッションだ。これを達成するため、私たちはメトリックス(数値)にコミットする必要がある。

顧客のために解決する – Solve For The Customer (SFTC)。顧客を満足させるだけでなく、成功させることが重要だ。

透明性 – 会社の中のあらとあらゆる情報を社員全員に開示する。

オーナーシップを持つ – 自律とオーナーシップを大事にしている。たくさんの細かいルールやポリシーを作るのではなく、個人個人に判断を委ねる。

人>パーク – 会社の最大な従業員特典は、”Amazing People” に囲まれること。謙虚で共感力が強く、柔軟性と透明性のある、有能な人に囲まれる環境である。

ユニークであれ – 他とあえて違うことをしないとイノベーションは起きない。現状に挑戦し続けることが大事。

人生は短い。意味のある事をしろ – 仕事は人生の中の大部分を占めている。だからこそ楽しく、健康で、意義のあることをするべき。

SmartHRの6つのバリュー

そして最後は、勢い良く成長しているSmartHRのバリュー(ウェブサイトからの引用)。

自律駆動 – SmartHRは「100の問題を50人で2問ずつ解く組織」を目指す。そのために、情報をオープンにし、フラットな状態をキープすることを約束する。

ひとりひとりが指示を待つのではなく、みずから解くべき問題を見つけ出そう。そして、自分で判断し、主体的に行動を起こしていこう。

早いほうがカッコイイ – あれこれ悩む前に、動き出そう。まずは荒削りでもOK。最速のアウトプットを心がけ、フィードバックのループを素早く回していこう。

大きな意志決定も、即断即決でいこう。それがチームを加速させ、社会を加速させる原動力になる。

最善のプラン C を見つける – 今あるものが最適解とは限らない。「こんなものだろう」という思い込みを捨て、常識を疑い、俯瞰で物事をとらえよう。

手段や技術に固執せず、柔軟に工夫しよう。選択肢を多く出し、「どちらか」ではなく「どちらも」叶える最善の答えを生み出そう。

一語一句に手間ひまかける – 細部まで徹底的にこだわろう。言葉はもちろん、UIも、コードも、すべてはユーザーや社会に対するメッセージだ。

もっと言葉を磨こう。1 ピクセルにこだわろう。コードの一行一行に魂を込めよう。その小さな手間ひまが、大きな成果につながっていく。

ワイルドサイドを歩こう – なんでも挑戦して失敗しよう。そして、失敗から学び、次へと活かそう。

新しい挑戦にはレールがない。誰も通ったことがない道の先には、誰も提供できていない価値がある。挑戦をやめなければ、いつかたどり着ける。

人が欲しいと思うものをつくろう – 世の中の深い課題に目を向け、大きな変革を起こそう。表面的な解決策ではなく、人々の行動から課題をあぶり出そう。

現在に最適化するのではなく、未来を見据えて考えよう。そして、ユーザーが自慢したくなるほどのプロダクトをつくろう。

SaaS企業が勝つために必要なバリュー

もうすでに気が付いているかもしれないが、3社のバリューには共通している要素がいくつかある。そしてその要素こそが、僕がどのSaaS企業にも取り入れて欲しいと思うポイントだ。

カスタマーサクセス:3社とも顧客目線のバリューを掲げている。SaaSという言葉の最後の”S”は「サービス」をさす。プロダクトだけではなく、セールス、オンボーディング、そしてカスタマーサクセスの全てを顧客目線で設計、実行することで、より良いサービスへと成長させていく必要がある。「顧客と共に成功し、成長し続ける」これがSaaS企業にとって一番重要な使命だと思う。

イノベーション: 顧客がサービスを導入してくれる主な理由の一つは、テクノロジーだ。常に新しい事にチャレンジし続けることによって、他社との差別化を強化し、顧客に最先端のソリューションを提供する。テクノロジードリブンであることももちろん重要だが、挑戦的なマインドセットも会社の文化に根付かせる必要がある。

透明性:SaaS企業はプロダクト、マーケティング、セールス、サクセスなど様々なファンクション間の連携によって成り立つ。この連携力の強さによって顧客の体験が大きく変わる。そのためにも、全社員を信頼し、情報を開示すること。そして社員それぞれにオーナーシップを持ってもらう必要がある。

以上が、僕が考えるバリュー設定をするときに積極的に取り入れると良い「SaaS企業が勝つために必要なバリュー」だ。

ただ注意して欲しいのは、他の企業のバリューをそのまま自分の企業に当てはめようとしても、それは根付かない。自分たちが体現することができる、自分たちに合った言葉とバリューの組み合わせを探す必要がある。

(edited by kobajenne

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理想的なシリーズAのSaaSスタートアップ


Photo by: simone

「理想的なシリーズAのSaaSスタートアップの状態とは?」

起業家からよく聞かれる質問のひとつ。

多くの場合、シリーズAの資金調達を実行するSaaSスタートアップは、およそ3〜5億円を調達しようとする。今回のポストでは、僕がシリーズAのSaaSスタートアップへの出資を検討する際に確認しているポイントについて書いていきたいと思う。

ただし、これはあくまでも「理想的な状況」であって、実際この中のいくつかの要素が足りていなかったとしても、シリーズAの調達ができないというわけではない。でも、満たしてるポイントが多ければ多いほど調達できる確率は確実に上がる。

Retention
僕のブログやツイッターでも〈継続率の重要性〉について常に発信しているが、チャーンが高ければ高いほどARR100億円を達成するハードルは上がる。
だから、有料顧客がサービスに高い満足度を示しているのか、長期にわたって使い続けたいと思われているのかを確認している。年間契約が多いSaaSスタートアップの場合、契約更新率は90%以上が理想。月額契約が多い場合は、1%未満のカスタマーとグロスチャーンが理想だ。

Growth
成長率に勢いがあることが全てではないが、成長率は様々な視点から事業の状況を語ってくれる。
そのサービスに高い需要があるのか。顧客にとって必要不可欠なサービスになるため、強力なセールスやマーケティング、カスタマーサクセスの構築ができているのかもこの数字が示す。MRR1000万円を突破したタイミングで月次成長率10%以上を維持できてるのであれば上出来だ。

Management Team
シード段階と比べて、チームがどの程度アップグレードできているのか。
セールスやカスタマーサクセス、プロダクトチームそれぞれの先頭に立ちチームを引っ張っていける人材がいるのか。各チームのレベルはどのくらい向上しているのか。そして、今まで社長が行ってきた業務をどれだけ権限委任することが出来ているのか。最も良いのは、営業のクロージングを社長以外の人ができ始めていて、さらにカスタマーサクセスとプロダクトチームの権限委任が完了している状態だ。

TAM / SAM / SOM
狙っている市場で、ARR100億円以上の企業を作ることができるのか。
この答えは、ボトムアップで(対象顧客数 x ARPA)で算出した方が分かりやすい。可能であればSOM (今のプロダクトで狙える顧客セグメントの市場規模)、SAM(2〜3年の期間で狙いたい顧客セグメントの市場規模)、そしてTAM (最終的に獲得したい最大の市場規模)に分けられていると良い。SOMが100億円以上、SAMが500億円以上、そしてTAMが1000億円以上が理想と言える。

Competitive Dynamics
狙っている市場をどこまで独占できるのか。
他社より自社のプロダクトが優れていること。高い競合勝率(90%以上が理想)。そしてさらに、サービスの導入理由を顧客ヒアリングなどを通じて確認できると良い。

以上が、シリーズAのSaaS企業に対して投資を検討する際に重要視しているポイントだ。冒頭で伝えたとおり、これらはあくまでも〈理想な状態〉だ。実際、これらを満たせていない企業に投資を実行したこともある。でも、最高のシリーズAを達成するために、常に理想的な状態を意識しながら挑んで欲しいと思う。

(edited by kobajenne

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起業家にとってレバレッジが効く仕事とは?


Photo by: DzyMsLizzy

過去に何度も書いているように、スタートアップはとにかく忙しい。起業家はすぐにやりたい事ややるべき事が山積みになり時間に追われるようになる。でも、プロダクト/マーケットフィットを達成しているスタートアップの起業家は、ハイスピードで様々な作業をこなすマインドセットから「レバレッジが効く」仕事に時間をかけるマインドセットへとスイッチする必要がある。

起業家にとってレバレッジが効く仕事とは?
多くの起業家は、顧客の獲得や、プロジェクトマネージメント、バックオフィスのタスク処理など、どうしても短期的に会社のKPIに直結する作業をしたくなるだろう。だが、こういった業務にはレバレッジが無い。「レバレッジが無い仕事」とは、アウトプットを再利用できなかったり、組織の中の影響範囲が狭かったりする内容の仕事を指す。

逆にレバレッジが効く仕事は、一度出したアウトプットを何度も何度も利用することができ、組織への影響範囲が大きく影響を与える時間軸も長いものだ。レバレッジが効く仕事は、KPIに直結しない、緊急度が低い内容になってる場合が多く、一見時間の無駄に見えてしまうかもしれないが、実は非常に重要度が高いのだ。

起業家はどのような「レバレッジが効く仕事」を行うべきなのか?
以下は、僕が考える起業家にとって重要なレバレッジが高い仕事の例だ。

ゴール設定:会社全体のゴールを、部署さらには社員レベルにまで落とし込むこと。 社員一人一人がどんな事にフォーカスするべきなのかを明確にすることで、部署間のコラボレーションがより円滑に進めることができるようになったり、それぞれが整合性を保った働き方ができるようになる。さらに言えば、社員の自己啓発につながるフレームワークとなる。社員全員に四半期から一年単位で影響していく内容になるため、目標設定には十分に時間をかけることを高く勧める。

オンボーディング / トレーニング:社員のオンボーディングやトレーニングの設計作業は掛け算効果がある。新入社員を戦力化するまでのスピードを上げることもできるし、業務効率の向上にも繋がる。GmailやSlackの使い方を教えるだけでも、その社員の今後の人生のアウトプットは上がるだろう。また、マネージャーや幹部層のトレーニングやコーチングも高いレバレッジがある重要な仕事だ。

コミュニケーションのプロトコル:良いアイディアや判断は、悪いコミュニケーションによって殺される。起業家の思いや考えを社員一人一人に届ける仕組みづくりもレバレッジが効く仕事の一つだ。会議の仕方や1on1のやり方、クラウドサービスの活用方法次第で、社長から社員へ、そして社員同士のコミュニケーションをより効率よく、効果的にすることができる。

幹部やマネージャー採用:マネージメントや幹部層の強化は、起業家にとってレバレッジが非常に高い。強いリーダーシップは「優秀な人材の巻き込み力」を強化し従業員を活かすことができる。そして何より、これによってレバレッジが高いその他の仕事に取り組むための時間を確保することができるようになる。

レバレッジ無しではスケールはできない
自分の時間は常にに一番貴重であり、有限なものだ。会社をスケールするためには、組織としてのアウトプットを上げ続けていく必要があり、そのためには自分が働いていない間でも効果を感じられるようなレバレッジが高い仕事を行わなければならない。自分のカレンダーやタスク管理アプリを見て、『レバレッジが効く仕事』がどのくらいできているのかを確認してみてほしい。

(edited by kobajenne

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最高の組織をつくるための必須ツール『1 on 1』


Photo by: The DEMO Conference

「最高の組織」をつくるには、従業員一人一人が自身のミッションを理解し、目標、期待そして戦略を明確にすること。そして、自身のアウトプットが会社全体に貢献しているという実感(自信)を持てる環境づくりが必要だ。

1 on 1は、これらを実現するために必要不可欠なツールであり、もしマネージャーに必要なスキルを一つだけに絞るとしたら、僕は「1 on 1を上手く行えるスキル」を挙げる。

マネージャー=時間のレバレッジ、部下=集中と成長のきっかけ

マネージャーにとって、部下との定期的な30分間1 on 1の時間を設けることは、レバレッジを効かせるための重要な時間になる。

1 on 1を通して「いま何が大事なのか」の認識をお互い再確認し、情報をシンクロさせる。これが、”選択と集中” の絶好の機会になる。会社の成長に貢献するアウトプットを増やし、部下のさらなる自立に繋げていくことができる。

また、マネージャーにとっても自分以外の視点で会社や組織の課題を拾えるきっかけになり、自分自身の成長に繋がるフィードバックを受け取ることができる。

何よりも1 on 1は部下との信頼関係を深めることができる。

進捗を確認する時間ではない

1 on 1は、進捗やタスクを管理する時間ではない。産業革命の時に普及し定着した「マイクロマネージメント」は、インターネット企業の組織体では通用しないと思っている。

1 on 1の時間は、部下のより一層の自立・成長を促すため、そしてクリエイティビティを引き出すための「部下のための時間」だ。極端な話、マネージャーは自ら話す必要はなく、”聞く姿勢” であるべき。答えを出すのではなく答えを出す手助けをする意識が重要だ。そして、よくありがちだが予定していた1 on 1は絶対キャンセルしないこと。

構成は10-10-10

1 on 1ミーティングの理想の構成は:
● 部下が話したいことを自由に話す・・・10分
● マネージャーが話したいことを話す・・・10分
● 未来について語る・・・10分

最初の10分は、部下が話したいことをとにかく自由に話す時間。もし、マネージャーが最初に「あの件はどうなりましたか?」や「週末はどうでしたか?」という質問を部下にぶつけてしまったら、それはすでに “マネージャーが話したいこと” を話していることになる。会話の出だしは「最近どうですか?」や「何について話したいですか?」からスタートすると良いだろう。

次の10分では、プロジェクトの進捗確認をしても良いが、フィードバックを得る時間に使うことを推奨する。例えば、サイバーエージェントやSmartHRでは「あなたのパフォーマンスを天気で表すと、どんな状態ですか?」という質問をしている。これは、部下のコンディションや課題を、双方に伝えやすい形で引き出すことができる良い例だ。
他にも「私が見落としている機会損失はありますか?」や「働きやすい環境をつくるために私にできることはありますか?」などの質問で、マネージャーに対するフィードバックを求めることもできる。

最後の10分は、直近の目標や、部下のキャリアプランニングも含めた中長期の将来プランについて話すと良い。

もちろん、きっちり時間を守る必要はない。最初は、30分間部下が話しっぱなしになってしまうということもあるかもしれないが、回数を重ねる度に徐々にこの理想の構成に近づければ良い。

1 on 1の頻度

1 on 1の頻度には色々な考えがあり、最初は週に一度、そして徐々に月に一度に減らしていく方が良い人もいれば、週に二度が良い人もいる。僕は、直属の部下との1 on 1は、週に一度の頻度が最適だと思っている。その理由は単純で、比較的頻度が多い方が、情報や感覚のシンクロ率が高くなり、信頼関係が築きやすくなると考えているからだ。

『1 on 1』は、実は奥が深く、最初から効果的かつ効率的な1 on 1をするのは難しい。とにかく回数を重ねて、どうすればもっと有意義な1 on 1にできるのかを試行錯誤していくと良い。1 on 1を長くやってきた他のマネージャーやリーダーに話を聞くのも効果的だろう。

僕が1 on 1について参考にしている記事は、以下。

(edited by kobajenne

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SaaSは全ての業界を食うのか?業界特化型SaaSを起業するときに考えるべきこと


Photo by: Kevin Gill

SaaSは全ての業界を食うのか?業界特化型SaaSを起業するときに考えるべきこと

ここ数年、業界特化型のSaaS企業(Vertical SaaS)に注目が集まっている。
例えばアメリカでは、製薬業界に特化したVeeva(時価総額 約1.2兆円)、教育業界に特化した2U (時価総額 約5600億円)、建築業界特化したのProcure Technologies(時価総額 約1000億円)、ウェルネス業界に特化したMindbody(時価総額 約2000億円)などがあり、2016年アメリカのVertical SaaS企業の時価総額は、合計16兆円にまで拡大している(参照)。

日本でも建築*リーガル保険*食品工場*歯科医院*薬局ホテル国際物流等などの業界で、Vertical SaaS企業が次々と生まれている(* BEENEXT支援先)。

また、SMSが運営する介護業界に特化したSaaS「カイポケ」も年間売上33億円のビジネスに成長している。

では、Vertical SaaSのビジネス機会は、全ての業界に対して存在するのか?
Vertical SaaS企業を立ち上げるときに考えるべきポイントについてまとめてみた。

対象顧客が支払うSaaS利用料の限界はいくらなのか?
Vertical SaaS企業を立ち上げようとした時に考えるべき重要なポイントは、対象となる業界の状況とその業界内の顧客が支払うSaaS利用料の目安だ。例えば、その業界全体が潤っているならば、年間1000万円を支払う顧客が多く存在するかもしれない。しかし、利益率が低い業界ならば年間10万円程度しか支払わない顧客の方が多いかもしれない。

全体的に儲かっている業界なのであれば、市場規模についてはあまり心配する必要はない。
なぜなら、利用料を年間1000万円支払える顧客が多く存在する場合、ARR50億円を達成するために必要な有料顧客は500社程度だからだ。
その一方で、SaaSに対して少額の資金しか投入できない顧客が集まる業界の場合、自分の会社が現実的に到達できる規模がどの程度になるのかを考える必要がある。一顧客あたりが支払う利用料が年間10万円ならば、ARR50億円を達成するには5万社の顧客が必要になる。対象顧客は何社存在するのか?マーケットシェア20%程度でも十分な規模に到達できるのか?などを問うべきだ。

営業サイクルはどれぐらい長いのか?
平均単価が年間1000万円以上であれば問題になることは少ないが、年間500万円以下の顧客をクロージングするのに半年以上かかるのであれば、もう一度エクセルと向き合う必要があるかもしれない。

極端な例として、年間30万円の顧客をクロージングするのに12ヶ月かかり、営業マンあたりのクロージング数が年間10社しかないとすると、その営業マンの給料でさえも一年で回収できないということになる。営業マンの費用以外にもカスタマーサクセス費用、オペレーション費用、営業サポート費用、マーケティング費用などもあることも忘れずに。

そんな中、「一人の営業マンは自分の年収の4倍のARRを獲得する」というのが一つの良い指標になるだろう。つまり、年収500万円の営業マンは、年間2000万円のARRを獲得する必要がある。ちなみに北米では、6〜8倍程度のARRが望ましいと言われている。

〈参考〉以下は、Hubspotがまとめた、の年間契約金額に応じた平均営業サイクルの表:

セールスフォースでは解決できない独特な課題が存在するか?
特定の業界に特化したSaaSを作ろうとしたとき、セールスフォースなど既存のHorizontal SaaSで解決できる課題はどのくらいあるのか?もし、既存の大手SaaSで課題のほとんどを解決できるのであれば、差別化要素が足りていないのかもしれない。

でも、その業界独特なプロセスや課題があり、既存のSaaSよりも10倍良い体験を生み出せるのであれば、大手SaaS企業に勝てる可能性は十分ある。

日本ではまだまだ存在するVertical SaaSの機会
下図は、北米大手VC Bessemer Venture Partnersが作ったVertical SaaSのマップ。
日本では特に物流、医療、教育などでチャンスがまだ残っていると僕は思う。

SaaSは、まだまだ色んな業界を”食える”と思っている。ただし前述のとおり、狙う業界によっては展開の難度や、市場サイズが異なり、ビジネスモデルを成り立たせる難易度が想像以上に高い場合があるので、Vertical SaaSに挑戦する起業家は上記のポイントを頭に入れて自分たちの事業の可能性を考えてみてほしい。

(edited by kobajenne

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70億円調達したB2B SaaSスタートアップのピッチ資料を解説


Photo by: Phil

カスタマーサポートや求人、その他お問い合わせのメールを一度に複数人で対応できる「コラボレーション・インボックス」を展開するFront社が、今年1月、シリーズBでSequoia Capital等から約70億円を調達した。この資金調達時に使用された資料を同社のCEOが一般公開していたので、僕の視点からこの資料の”イケてる”ポイントを解説したい。

様々な業界や業種が使っている

スライド左下の表から、テック業界以外にも旅行や教育、不動産など様々な業界の顧客を獲得できていることが分かる。また、右下の表では、カスタマーサポートからHR、マーケティングやプロダクトチームなど、一部の部署に限らず会社内で幅広く使われているのが分かる。

スタートアップを評価する時、多くのVCが注目するポイントの1つに「TAM (この会社が狙える最大の市場規模)」があるだろう。僕の場合も『この企業がターゲットにしている市場は、ARR 50億円以上の企業を作り出す可能性を持っているのか』という点はいつも確認するようにしている。

一つの業種にしか対応していないB2B SaaSを展開している場合、それでも十分大きなACVが取れるのか、または様々な業界に対応できるようサービスに変更を加える必要があるのかを検討する。その結果一つの業界に絞った場合も、その業界の中でさらに様々な業種を狙えるのか、大きなACVを取れるのかが重要な基準になる。

Front社は、業界そして業種をまたいで顧客を獲得できていることが、特に優れているポイントの一つだろう。

ARRが順調に伸びてる

具体的な数字は非公開になっているが、このグラフからもARRが順調に伸びていることが見て取れる。SaaS企業は常にT2D3の成長率を求められているわけだが、同社は、恐らくその成長率を満たしているのだろう。前ラウンド(シリーズA)の調達資料には、2017年度の計画が10億円以上のARRになっていたので、この数字を達成したものと考えられる。

ネガティブチャーン!

ネガティブチャーンとは、Net Churnがマイナスになっていること。つまり退会による売上の減少よりもアップセルやアップグレード、エキスパンションによる売上の増加ペースの方が速いということを示している(方程式はこちら)。

上のスライドでは、同社がネガティブチャーンを達成できていること、そして、Gross Churnも改善傾向にあることを示している。

営業チームもスケールできている

もう一つ、VCがB2B SaaSのシリーズBラウンドで出資を検討する際に着目するポイントとして、「営業チームをスケールさせられているか」がある。ただ単に営業メンバーを増やすだけではなく、営業メンバーのオンボーディングや、トレーニングがきちんとできているのかが重要だ。スライド左側は、営業メンバーの数(グレー)と個人目標を達成できてるメンバーの数(ブルー)をグラフにしたもの。一般的に、営業メンバーの半分以上が目標を達成できている状態が健全だと言われており、Front社はその比率を超えていることが分かる。

スライド右側は、営業チームのキャパシティ(グレー)と実績(ブルー)を表している。実績がキャパシティを常に上回っており、モチベーションの高いチームを維持できていることが分かる。

ASPの上昇と大型案件の増加

ASP(平均販売単価)が上がり、大型案件(定義は不明)が増加していることを表しているスライド。ここで注目したいのは、同社のサービスが中小企業だけでなく、大規模な顧客にも販売できているということ。営業チームのレベルが上がっている証拠だ。

マーケティング指標が健全

スライドの上半分はマーケティング費用とリード数を四半期毎に比較したものだが、このスライドでは、左下の表に注目してほしい。
まず、LTV/CACの数値。北米のSaaS業界では、LTV/CACが3以上であることが望ましいと言われている中、同社の直近四半期では、4.4を達成している。

次に、売上に対して使われているマーケティング費用の比率。アメリカ上場SaaS企業の売上に対するマーケティング費用の比率は、20%〜50%程であるケースが多い。例えば、Salesforceは50%以上、Marketoは60%以上を占めているなか、Front社は20%を下回っている。

Net Retention 150%

以前Net Revenue Retentionの重要性について書いたことがあるが、Front社は、1年後のNet Revenue Retentionが150%、さらに時間軸と共にユーザーの利用率(スライド右下)も増加傾向にある。これは、アップセルやエキスパンションが確実にできていることを表している。

Front社は、様々な観点で非常に魅力的なスタートアップだ。同社の シリーズAシリーズB 両ピッチ資料も、参考になるポイントが多く含まれているので、是非一度見てみて欲しい。

(edited by kobajenne

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この数値がSaaS経営の難易度を決める「Net Revenue Retention」


Photo by: zapmole756

SaaS企業は、T2D3の成長率を求められるが、実はこの成長を達成する難易度は企業ごとに異なる。この難易度を示す重要な指標の1つが「Net Revenue Retention」だ。

Net Revenue Retentionとは
売上継続率のこと。今月獲得した売上が来年の今頃にはどの位になるのか、を示す指標。
方程式は以下:

A = [1年前に当月新規獲得と契約更新をした有料顧客のMRR]

B = [その同じ顧客の今月のMRR]

Net Revenue Revenue Retention = B / A

参照:Essential SaaS Metrics: Revenue Retention Fundamentals

例えば、昨年3月の新規有料+契約更新顧客のMRRが100万円で、その同じ顧客からの今年3月のMRRが90万円の場合、Net Revenue Retentionは90%になる。

アメリカの上場SaaS企業は、Net Revenue Retentionが100%を超えているケースが多数。
下のグラフは、Net Revenue Retentionを公表しているアメリカの上場SaaS企業の一覧。Twilioが170%、Boxが130%、Zendeskは123%で、これら企業のNet Revenue Retentionの中央値は、117%となる。

(クリックすると拡大します)

Source: Net Dollar Retention Benchmarks

100%を超えているということは、退会による売上の減少よりもアップセルやアップグレード、エクスパンションによる売上の増加ペースの方が速いということを示している。

例えば Veeva Systems の場合。Net Revenue Retentionが187%なので、今月新規顧客から獲得した月次売上が1億円だとすると、来年の今頃その同じ顧客から得られる月次売上は1.87億円になるということだ。

Net Revenue Retentionは、低ければ低いほど経営のハードルが上がり、高ければ高いほど経営が楽になる。
今月の新規有料顧客からのMRRが1000万円だったとしよう。

Net Revenue Retentionが150%の場合、新規の顧客を全く獲得しなくても来年の同じ頃に獲得できる売上は1500万円になる。しかし、Net Revenue Retentionが50%の場合は来年の同じ頃の売上は500万円になってしまう。

つまり、Revenue Retentionが低ければ低いほど、売上の成長計画を達成するために、新規の売上を多く獲得する必要が出てきてしまう。

プロダクトマーケットフィットとカスタマーサクセスが鍵
売上継続率を上げるためには、プロダクトマーケットフィットを達成すること、アップセルやアップグレードが可能な料金体系にすること、そしてカスタマーサクセスを実践することが重要だ。

これらのポイントについては、以下の記事も参考にして読んでみてほしい。

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OKR (目標と主な結果)

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OKRというゴール設定テクニックがある。

「Objective and Key Result(目標と主な結果)」の略で、企業のチームメンバーそれぞれの目標と期待されている結果を明確にし、組織のオペレーションとコミュニケーションを効率化するためのシステムだ。1970年代にIntelがこのシステムを採用して以降GoogleやLinkedInなど数々のシリコンバレー企業がこのシステムを実践している。

OKRのメリット

OKRを組織に導入するメリットはいくつかあるが、一番大きなメリットはゴールを明確にすることによって何にフォーカスするべきなのか、何を無視しても良いのかをクリアにできることだろう。そして、OKRは会社全体に公表されるのでコミュニケーションの効率化にも繋げることができる。

OKRのプロセス

まず四半期ごとに会社全体のOKRを設定する。

これは社長や役員の話し合いで決められることが多い。会社全体のOKRは各チームリーダーや部署のリーダーに共有され、その内容を基に次は自分が担当するチームや部署のOKRを設定する。この時留意してほしいことは、会社全体のOKRとの整合性だ。チームや部署のOKR設定が済んだらチームメンバー全員に内容を共有し、その後チームメンバーが個人のOKRを設定する。個人のOKRは、チームリーダーとの複数回の一対一ミーティングを経て、そこで受けたフィードバックの内容を反映させながら固めていく。特に注意深く見るべきなのは、チーム全体のOKRとの整合性と高い目標が掲げられているかだ。

但しこのミーティングの場は、チームが実践すべきことや新たなアイディアなどをチームリーダーに提案する機会にもなるため、話し合いの中でチームリーダーがチームのOKRの修正を検討するきっかけになることもあれば、時には会社全体のOKRの見直しに繋がることもある。

全メンバー、チーム、部署、会社全体のOKRが確定したら、全てのOKRを会社全体に公表し、いつでもアクセスできる場所にファイルを置く。

OKRの設定

OKRの設定のポイントは以下を見てほしい:

  • OBJECTIVE (目標)
    • 野心的であり、チーム全体そして会社全体で整合性がとれていること。
    • 定量的である必要は無い。
    • ここでのポイントは、少し高めの無理をした設定にする事。
      100%以上を出し切らないと100%の達成率には届かないように、目標値を高めに設定することによって人はより効率よく働く工夫をするようになり、結果的に本人の成長に繋がったりする。100%出し切って6割〜7割ぐらいの達成率がちょうど良い。
  • KEY RESULTS(主な結果)
    • 1つのOBJECTIVE(目標)に対して1から最大4つのKEY RESULTSを設定する。
    • 目標の達成度を測るために必要となるため、定量的な要素を含める必要がある。
    • 客観的に評価できるような内容で設定する。

例1(プロダクトの場合):

OBJECTIVE(目標)
  最も使いやすいニュースアプリを作る
KEY RESULTS(主な結果)
  ロードタイムを30%削減
  新規登録ファネルの達成率20%増
  3月10日までにバージョン2をデプロイ

例2(コミュニティーの場合):

OBJECTIVE(目標)
  アクティブなコミュニティーを結成
KEY RESULTS(主な結果)
  1ユーザーあたりの掲示板投稿数を50%増
  返信率を30%増
  新たなキャンペーンを3つローンチ

会社全体とチームや部署のOKRは最大5つまで、個人のOKRは最大3つまで設定することができるが、目標に更にフォーカスしていくためには、OKRの数は少ない方が良いだろう。

OKRの評価

四半期が終わったら、個人で設定したOKRの達成率を個別に振り返る。全社メンバーを集めて、チームや部署そして会社全体の達成率を評価する。

例1(プロダクトの場合):

OBJECTIVE(目標)
  最も使いやすいニュースアプリを作る(以下の結果から算出する平均達成率は、71%)
KEY RESULTS(主な結果)
  ロードタイムを30%削減(19%削減を達成、達成率63%)
  新規登録ファネルの達成率20%増(10%増加、達成率50%)
  3月10日までにバージョン2をデプロイ(3月10日に無事ローンチ、達成率100%)

例2(コミュニティーの場合):

OBJECTIVE(目標)
  アクティブなコミュニティーを結成(以下の結果から算出する平均達成率は、59%)
KEY RESULTS(主な結果)
  1ユーザーあたりの掲示板投稿数を50%増(返信率40%で、達成率80%)
  返信率を30%増(返信率20%で、達成率66%)
  新たなキャンペーンを3つローンチ (1つしかローンチできず、達成率33%)

その他のポイント

Key ResultとObjectiveの整合性:会社のKey Resultsは、それぞれの部署または個人のObjectiveに紐付く。部署のKey Resultは、下図のように、その組織に属す部署または個人のObjectiveに紐付ける必要がある。

OKR.001 (1)

組織図が重要:チームの目的を明確にし、各メンバーが適正なチームに配置されているのかを確認するためには組織図を設計する必要がある。組織図がちゃんと設計されていないと、OKRの設定自体が難しくなったりレポートラインが複雑になってしまう。

しつこいと思うほどOKRについて話す:特に最初にOKRを導入する組織が陥りやすい失敗は、OKRの設定は出来たものの、その後のコミュニケーションに活かすことができず放置してしまうというケースだ。だからチームや会社全体のミーティングでは必ずOKRを見ながら会議を進行するべきだし、日々のコミュニケーションでもOKRについての会話が起きるようにメンバー1人1人が推進していく必要がある。特にチームリーダーや会社の経営メンバーはしつこいと思うほどOKRについて語るくらいがちょうど良い。

OKRの導入は5人から:まだ2人や3人しかいないスタートアップの場合は、人数が少ないためOKRを導入する必要はないかもしれない。でも、メンバーが5人以上になった時点で、目標をより正確に共有するための手段としてOKRの導入を推奨する。

結果の達成率よりもプロセスが大事:OKRは、コミュニケーションの効率化やメンバー1人1人の目標を明確にするためのシステムであり、結果の達成率ばかりを気にする必要は無い。連続で低い達成率であった場合でも、考えるべきはOKRの設定方法や目標達成に向けた取り組み方、人員体制などの見直しを行う必要性があるかどうかだ。

このOKRというシステムを確実に実践するためには、メンバー1人1人の協力と、かなりの努力が必要となる。でも的確に実施することができれば、たくさんの無駄をなくし、組織のフォーカスをより高めることができる。みんなも自分たちの組織で是非実践してみてほしい。

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