レイヤーで考えるSaaSの経営と戦略

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分解して見ると、SaaS企業は、様々なプロダクト、顧客セグメント、そして獲得戦略のレイヤー(層)を重ねることによって売上を伸ばし続けている。例えば、大手米SaaS企業のBoxとVeevaの資料からも、時間軸とともにプロダクトのラインナップを重ねて、対象顧客を広げているのが分かる。今日は、SaaS企業のレイヤーの種類と考え方について書こうと思う。

Veevaのプロダクトラインナップ
Boxのプロダクトラインナップ

SaaS企業には、主に3つのレイヤーがある。

  1. プロダクト: 恐らく、多くの人が最初に思い付くのが「プロダクト」のレイヤー。プロダクトレイヤーを重ねる目的は様々だが、例えば、既存顧客にプロダクトを売り込んで平均単価を上げる「アップセル」を実行すること、既存顧客とのタッチポイントを増やして(LTVを上げる目的として)退会率を下げること、そして新たな顧客セグメントを狙いに行くこと等の目的がある。
  2. 戦略: 主にユーザー獲得にかかわる「戦略」レイヤー。インバウンドやアウトバウンド、コンテンツマーケティングやセミナーなど。また、営業育成やインサイドセールスチームの立ち上げも戦略レイヤーに入ると思っている。
  3. セグメント:SMBやエンタープライズ、IT企業や製造業、顧客セグメントには様々な切り口がある。新たな顧客セグメントを狙いに行くときは、プロダクトか戦略、または両方が絡んでくることがほとんどだ。

では、どのレイヤーをまず増やすべきなのか。優先順位の考え方には、主に以下2つの要素がある。

  1. TAM: 市場規模が一番重要。5年後10年後の売り上げ構成を考えた時、どのレイヤーが一番大きいのか?可能であれば、一番大きいところから狙いに行きたい。
  2. ロードマップ:ただし、単純にTAMだけを優先するのも難しい。TAMの大きいレイヤーを狙うためには、プロダクトや組織をどこまでストレッチさせないといけないのかも考慮も必要だ。例えば、SMBからエンタープライズの市場を狙うためには、その市場で戦うことができる組織やプロダクトになるまでにどのくらいの時間が必要なのか。その準備期間中に他のレイヤーを先に狙いに行く必要はないのか。このように、レイヤーを追加する時は、他のレイヤーとのトレードオフを考える必要がある。

今月の売り上げは12ヶ月前の取り組みによって生み出され、12ヶ月後の売り上げは今日の取り組みによって生み出される。

SaaS企業は、昨日や今日の施策がすぐに結果として現れない。特に、規模が大きくなればなるほど、新しい取り組みが全体の売り上げに影響し始めるまでの時間軸は長い。どんなレイヤーでも、少なくとも12ヶ月はかかると思った方がよい。

つまり、「MRRの伸び率が下がってきたから新しいレイヤーを増やそう」ではもう遅い。考え方としては、来年の今頃のMRRを達成するために今のうちにやるべきことは何なのか、再来年の今頃のMRRを達成するためにいつまでに何を始めるべきなのかといった考え方を持つ必要がある。大体、毎年1〜2個のレイヤーを足していく意識をしていくと良いと思う。

中長期の事業計画を作成するときは、このレイヤー毎に考えてみると、詳細で解像度の高い計画を立てることができる。レイヤーを足していき、長期に成長し続けられるSaaS企業を目指すと良いだろう。

(edited by kobajenne

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