情報を自分ごとにする重要性。妄想と無知さが生み出す戦略。〜 delyの堀江裕介

1200万ダウンロードを超える大ヒット料理動画レシピサービス「クラシル」を運営するdelyの堀江裕介さんにお話を伺いました。先日発表した、Yahoo! JAPANとのパートナーシップで話題になっていますが、今回のインタビューでは、彼の経営フィロソフィーや性格について聞きました。

【ハイライト】

  • 学生起業家の武器。
  • 妄想と無知さが特殊能力
  • アウトプットをあげるインプットの処理方法
  • 孫さんに気づいてもらった方法
  • 短期的には超シビア。長期的には楽観的。
  • “ハート to ハート”で人を巻き込む。
  • 人を採用するときは「夢とお金」は欠かせない。

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最高の組織をつくるための必須ツール『1 on 1』


Photo by: The DEMO Conference

「最高の組織」をつくるには、従業員一人一人が自身のミッションを理解し、目標、期待そして戦略を明確にすること。そして、自身のアウトプットが会社全体に貢献しているという実感(自信)を持てる環境づくりが必要だ。

1 on 1は、これらを実現するために必要不可欠なツールであり、もしマネージャーに必要なスキルを一つだけに絞るとしたら、僕は「1 on 1を上手く行えるスキル」を挙げる。

マネージャー=時間のレバレッジ、部下=集中と成長のきっかけ

マネージャーにとって、部下との定期的な30分間1 on 1の時間を設けることは、レバレッジを効かせるための重要な時間になる。

1 on 1を通して「いま何が大事なのか」の認識をお互い再確認し、情報をシンクロさせる。これが、”選択と集中” の絶好の機会になる。会社の成長に貢献するアウトプットを増やし、部下のさらなる自立に繋げていくことができる。

また、マネージャーにとっても自分以外の視点で会社や組織の課題を拾えるきっかけになり、自分自身の成長に繋がるフィードバックを受け取ることができる。

何よりも1 on 1は部下との信頼関係を深めることができる。

進捗を確認する時間ではない

1 on 1は、進捗やタスクを管理する時間ではない。産業革命の時に普及し定着した「マイクロマネージメント」は、インターネット企業の組織体では通用しないと思っている。

1 on 1の時間は、部下のより一層の自立・成長を促すため、そしてクリエイティビティを引き出すための「部下のための時間」だ。極端な話、マネージャーは自ら話す必要はなく、”聞く姿勢” であるべき。答えを出すのではなく答えを出す手助けをする意識が重要だ。そして、よくありがちだが予定していた1 on 1は絶対キャンセルしないこと。

構成は10-10-10

1 on 1ミーティングの理想の構成は:
● 部下が話したいことを自由に話す・・・10分
● マネージャーが話したいことを話す・・・10分
● 未来について語る・・・10分

最初の10分は、部下が話したいことをとにかく自由に話す時間。もし、マネージャーが最初に「あの件はどうなりましたか?」や「週末はどうでしたか?」という質問を部下にぶつけてしまったら、それはすでに “マネージャーが話したいこと” を話していることになる。会話の出だしは「最近どうですか?」や「何について話したいですか?」からスタートすると良いだろう。

次の10分では、プロジェクトの進捗確認をしても良いが、フィードバックを得る時間に使うことを推奨する。例えば、サイバーエージェントやSmartHRでは「あなたのパフォーマンスを天気で表すと、どんな状態ですか?」という質問をしている。これは、部下のコンディションや課題を、双方に伝えやすい形で引き出すことができる良い例だ。
他にも「私が見落としている機会損失はありますか?」や「働きやすい環境をつくるために私にできることはありますか?」などの質問で、マネージャーに対するフィードバックを求めることもできる。

最後の10分は、直近の目標や、部下のキャリアプランニングも含めた中長期の将来プランについて話すと良い。

もちろん、きっちり時間を守る必要はない。最初は、30分間部下が話しっぱなしになってしまうということもあるかもしれないが、回数を重ねる度に徐々にこの理想の構成に近づければ良い。

1 on 1の頻度

1 on 1の頻度には色々な考えがあり、最初は週に一度、そして徐々に月に一度に減らしていく方が良い人もいれば、週に二度が良い人もいる。僕は、直属の部下との1 on 1は、週に一度の頻度が最適だと思っている。その理由は単純で、比較的頻度が多い方が、情報や感覚のシンクロ率が高くなり、信頼関係が築きやすくなると考えているからだ。

『1 on 1』は、実は奥が深く、最初から効果的かつ効率的な1 on 1をするのは難しい。とにかく回数を重ねて、どうすればもっと有意義な1 on 1にできるのかを試行錯誤していくと良い。1 on 1を長くやってきた他のマネージャーやリーダーに話を聞くのも効果的だろう。

僕が1 on 1について参考にしている記事は、以下。

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SaaSは全ての業界を食うのか?業界特化型SaaSを起業するときに考えるべきこと


Photo by: Kevin Gill

SaaSは全ての業界を食うのか?業界特化型SaaSを起業するときに考えるべきこと

ここ数年、業界特化型のSaaS企業(Vertical SaaS)に注目が集まっている。
例えばアメリカでは、製薬業界に特化したVeeva(時価総額 約1.2兆円)、教育業界に特化した2U (時価総額 約5600億円)、建築業界特化したのProcure Technologies(時価総額 約1000億円)、ウェルネス業界に特化したMindbody(時価総額 約2000億円)などがあり、2016年アメリカのVertical SaaS企業の時価総額は、合計16兆円にまで拡大している(参照)。

日本でも建築*リーガル保険*食品工場*歯科医院*薬局ホテル国際物流等などの業界で、Vertical SaaS企業が次々と生まれている(* BEENEXT支援先)。

また、SMSが運営する介護業界に特化したSaaS「カイポケ」も年間売上33億円のビジネスに成長している。

では、Vertical SaaSのビジネス機会は、全ての業界に対して存在するのか?
Vertical SaaS企業を立ち上げるときに考えるべきポイントについてまとめてみた。

対象顧客が支払うSaaS利用料の限界はいくらなのか?
Vertical SaaS企業を立ち上げようとした時に考えるべき重要なポイントは、対象となる業界の状況とその業界内の顧客が支払うSaaS利用料の目安だ。例えば、その業界全体が潤っているならば、年間1000万円を支払う顧客が多く存在するかもしれない。しかし、利益率が低い業界ならば年間10万円程度しか支払わない顧客の方が多いかもしれない。

全体的に儲かっている業界なのであれば、市場規模についてはあまり心配する必要はない。
なぜなら、利用料を年間1000万円支払える顧客が多く存在する場合、ARR50億円を達成するために必要な有料顧客は500社程度だからだ。
その一方で、SaaSに対して少額の資金しか投入できない顧客が集まる業界の場合、自分の会社が現実的に到達できる規模がどの程度になるのかを考える必要がある。一顧客あたりが支払う利用料が年間10万円ならば、ARR50億円を達成するには5万社の顧客が必要になる。対象顧客は何社存在するのか?マーケットシェア20%程度でも十分な規模に到達できるのか?などを問うべきだ。

営業サイクルはどれぐらい長いのか?
平均単価が年間1000万円以上であれば問題になることは少ないが、年間500万円以下の顧客をクロージングするのに半年以上かかるのであれば、もう一度エクセルと向き合う必要があるかもしれない。

極端な例として、年間30万円の顧客をクロージングするのに12ヶ月かかり、営業マンあたりのクロージング数が年間10社しかないとすると、その営業マンの給料でさえも一年で回収できないということになる。営業マンの費用以外にもカスタマーサクセス費用、オペレーション費用、営業サポート費用、マーケティング費用などもあることも忘れずに。

そんな中、「一人の営業マンは自分の年収の4倍のARRを獲得する」というのが一つの良い指標になるだろう。つまり、年収500万円の営業マンは、年間2000万円のARRを獲得する必要がある。ちなみに北米では、6〜8倍程度のARRが望ましいと言われている。

〈参考〉以下は、Hubspotがまとめた、の年間契約金額に応じた平均営業サイクルの表:

セールスフォースでは解決できない独特な課題が存在するか?
特定の業界に特化したSaaSを作ろうとしたとき、セールスフォースなど既存のHorizontal SaaSで解決できる課題はどのくらいあるのか?もし、既存の大手SaaSで課題のほとんどを解決できるのであれば、差別化要素が足りていないのかもしれない。

でも、その業界独特なプロセスや課題があり、既存のSaaSよりも10倍良い体験を生み出せるのであれば、大手SaaS企業に勝てる可能性は十分ある。

日本ではまだまだ存在するVertical SaaSの機会
下図は、北米大手VC Bessemer Venture Partnersが作ったVertical SaaSのマップ。
日本では特に物流、医療、教育などでチャンスがまだ残っていると僕は思う。

SaaSは、まだまだ色んな業界を”食える”と思っている。ただし前述のとおり、狙う業界によっては展開の難度や、市場サイズが異なり、ビジネスモデルを成り立たせる難易度が想像以上に高い場合があるので、Vertical SaaSに挑戦する起業家は上記のポイントを頭に入れて自分たちの事業の可能性を考えてみてほしい。

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創業者同士の共通認識、2人の相性はなぜ良かったのか。エウレカ創業者、赤坂優氏と西川順氏とのインタビュー

大ヒットマッチングアプリ「Pairs」を生み出し、のちにThe Match Groupに買収されたエウレカ社を創業した赤坂さんと西川さんにお話を伺いました。
共同創業者の間で決めた方が良い共通認識、西川さんが組織のナンバー2として意識してきた事、2人のケンカ話などフランクで面白さ満載なエピソードになりました。

【ハイライト】

  • 2人の相性はなぜ良かったのか
  • 共同創業者の選び方
  • 創業者との共通認識の重要性
  • ケンカした時の対策
  • ナンバー2として意識してた事
  • 組織が育つために創業者たちが持つべき意識

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70億円調達したB2B SaaSスタートアップのピッチ資料を解説


Photo by: Phil

カスタマーサポートや求人、その他お問い合わせのメールを一度に複数人で対応できる「コラボレーション・インボックス」を展開するFront社が、今年1月、シリーズBでSequoia Capital等から約70億円を調達した。この資金調達時に使用された資料を同社のCEOが一般公開していたので、僕の視点からこの資料の”イケてる”ポイントを解説したい。

様々な業界や業種が使っている

スライド左下の表から、テック業界以外にも旅行や教育、不動産など様々な業界の顧客を獲得できていることが分かる。また、右下の表では、カスタマーサポートからHR、マーケティングやプロダクトチームなど、一部の部署に限らず会社内で幅広く使われているのが分かる。

スタートアップを評価する時、多くのVCが注目するポイントの1つに「TAM (この会社が狙える最大の市場規模)」があるだろう。僕の場合も『この企業がターゲットにしている市場は、ARR 50億円以上の企業を作り出す可能性を持っているのか』という点はいつも確認するようにしている。

一つの業種にしか対応していないB2B SaaSを展開している場合、それでも十分大きなACVが取れるのか、または様々な業界に対応できるようサービスに変更を加える必要があるのかを検討する。その結果一つの業界に絞った場合も、その業界の中でさらに様々な業種を狙えるのか、大きなACVを取れるのかが重要な基準になる。

Front社は、業界そして業種をまたいで顧客を獲得できていることが、特に優れているポイントの一つだろう。

ARRが順調に伸びてる

具体的な数字は非公開になっているが、このグラフからもARRが順調に伸びていることが見て取れる。SaaS企業は常にT2D3の成長率を求められているわけだが、同社は、恐らくその成長率を満たしているのだろう。前ラウンド(シリーズA)の調達資料には、2017年度の計画が10億円以上のARRになっていたので、この数字を達成したものと考えられる。

ネガティブチャーン!

ネガティブチャーンとは、Net Churnがマイナスになっていること。つまり退会による売上の減少よりもアップセルやアップグレード、エキスパンションによる売上の増加ペースの方が速いということを示している(方程式はこちら)。

上のスライドでは、同社がネガティブチャーンを達成できていること、そして、Gross Churnも改善傾向にあることを示している。

営業チームもスケールできている

もう一つ、VCがB2B SaaSのシリーズBラウンドで出資を検討する際に着目するポイントとして、「営業チームをスケールさせられているか」がある。ただ単に営業メンバーを増やすだけではなく、営業メンバーのオンボーディングや、トレーニングがきちんとできているのかが重要だ。スライド左側は、営業メンバーの数(グレー)と個人目標を達成できてるメンバーの数(ブルー)をグラフにしたもの。一般的に、営業メンバーの半分以上が目標を達成できている状態が健全だと言われており、Front社はその比率を超えていることが分かる。

スライド右側は、営業チームのキャパシティ(グレー)と実績(ブルー)を表している。実績がキャパシティを常に上回っており、モチベーションの高いチームを維持できていることが分かる。

ASPの上昇と大型案件の増加

ASP(平均販売単価)が上がり、大型案件(定義は不明)が増加していることを表しているスライド。ここで注目したいのは、同社のサービスが中小企業だけでなく、大規模な顧客にも販売できているということ。営業チームのレベルが上がっている証拠だ。

マーケティング指標が健全

スライドの上半分はマーケティング費用とリード数を四半期毎に比較したものだが、このスライドでは、左下の表に注目してほしい。
まず、LTV/CACの数値。北米のSaaS業界では、LTV/CACが3以上であることが望ましいと言われている中、同社の直近四半期では、4.4を達成している。

次に、売上に対して使われているマーケティング費用の比率。アメリカ上場SaaS企業の売上に対するマーケティング費用の比率は、20%〜50%程であるケースが多い。例えば、Salesforceは50%以上、Marketoは60%以上を占めているなか、Front社は20%を下回っている。

Net Retention 150%

以前Net Revenue Retentionの重要性について書いたことがあるが、Front社は、1年後のNet Revenue Retentionが150%、さらに時間軸と共にユーザーの利用率(スライド右下)も増加傾向にある。これは、アップセルやエキスパンションが確実にできていることを表している。

Front社は、様々な観点で非常に魅力的なスタートアップだ。同社の シリーズAシリーズB 両ピッチ資料も、参考になるポイントが多く含まれているので、是非一度見てみて欲しい。

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この数値がSaaS経営の難易度を決める「Net Revenue Retention」


Photo by: zapmole756

SaaS企業は、T2D3の成長率を求められるが、実はこの成長を達成する難易度は企業ごとに異なる。この難易度を示す重要な指標の1つが「Net Revenue Retention」だ。

Net Revenue Retentionとは
売上継続率のこと。今月獲得した売上が来年の今頃にはどの位になるのか、を示す指標。
方程式は以下:

A = [1年前に当月新規獲得と契約更新をした有料顧客のMRR]

B = [その同じ顧客の今月のMRR]

Net Revenue Revenue Retention = B / A

参照:Essential SaaS Metrics: Revenue Retention Fundamentals

例えば、昨年3月の新規有料+契約更新顧客のMRRが100万円で、その同じ顧客からの今年3月のMRRが90万円の場合、Net Revenue Retentionは90%になる。

アメリカの上場SaaS企業は、Net Revenue Retentionが100%を超えているケースが多数。
下のグラフは、Net Revenue Retentionを公表しているアメリカの上場SaaS企業の一覧。Twilioが170%、Boxが130%、Zendeskは123%で、これら企業のNet Revenue Retentionの中央値は、117%となる。

(クリックすると拡大します)

Source: Net Dollar Retention Benchmarks

100%を超えているということは、退会による売上の減少よりもアップセルやアップグレード、エクスパンションによる売上の増加ペースの方が速いということを示している。

例えば Veeva Systems の場合。Net Revenue Retentionが187%なので、今月新規顧客から獲得した月次売上が1億円だとすると、来年の今頃その同じ顧客から得られる月次売上は1.87億円になるということだ。

Net Revenue Retentionは、低ければ低いほど経営のハードルが上がり、高ければ高いほど経営が楽になる。
今月の新規有料顧客からのMRRが1000万円だったとしよう。

Net Revenue Retentionが150%の場合、新規の顧客を全く獲得しなくても来年の同じ頃に獲得できる売上は1500万円になる。しかし、Net Revenue Retentionが50%の場合は来年の同じ頃の売上は500万円になってしまう。

つまり、Revenue Retentionが低ければ低いほど、売上の成長計画を達成するために、新規の売上を多く獲得する必要が出てきてしまう。

プロダクトマーケットフィットとカスタマーサクセスが鍵
売上継続率を上げるためには、プロダクトマーケットフィットを達成すること、アップセルやアップグレードが可能な料金体系にすること、そしてカスタマーサクセスを実践することが重要だ。

これらのポイントについては、以下の記事も参考にして読んでみてほしい。

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ハードウェアスタートアップのHard Things。WHILL社 杉江 理社長にインタビュー。

累計30億円以上を調達し、シリコンバレーを拠点にパーソナルモビリティーを開発するWHILLの杉江社長と話しました。ハードウェアのコンセプトを考え、製造するまでのプロセス、シリコンバレーに進出してからの様々な経験、そして”超実践的”な英語勉強方法などについて触れました。

【ハイライト】

  • WHILLの立ち上げ
  • アイディアの検証方法
  • 何を材料にVCを説得したのか
  • 英語の勉強方法
  • 日本人とアメリカ人のマネージメントの違い

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SaaSの価格設定でよくある「間違い」

サンフランシコで開催された『SaaStr Annual 2018』で、Open ViewのBlake Bartlett氏とKyle Poyar氏が行ったプレゼンテーションの内容をまとめました。
※ 一部補足や説明も追加しています。(スライドはこちら

SaaSの価格設定は、誰しもがぶつかる悩みであり、最初から上手にできるスタートアップなどほぼいない。しかし、SaaSの価格設定が上手くできているかどうかは会社の成長スピードに関わる重要なポイントであり、決して無視することはできない。実際512社のSaaS企業を調査した結果、〈顧客獲得の最適化〉をするのと〈価格設定の最適化〉をするのでは、企業の成長インパクトに4倍もの差が出ることが分かっている。(下グラフ参照)

そこで、SaaSの価格設定でよく見受けられる「間違い」トップ5を紹介する。

価格が安すぎる

よくある間違いの1つは、価格を安く設定し過ぎること。導入のハードルを下げるために最初は手頃な価格を設定しがちだが、本来は、「このプロダクトに顧客はいくらまでなら支払うのか」をユーザーヒアリングを通して調査し、その結果を反映させるべき。

また、プロダクトは時間軸と共に常に改善され機能も増えるので、価格に変動が生じるのも当然のこと。Atlassian が2016年に買収した StatusPage の価格設定を時間軸と共に見てみると、2013年と2016年の価格の差は最大30倍にもなり、ARPUも当初より2.4倍になっていた。

価格体系が間違っている

アカウント数なのか、APIコール数なのか、それとも社員数なのか。何を基準に価格を変えるべきなのかを正しく決める必要がある。調査の結果、様々な業種や業界で利用されるHorizontal SaaSはアカウント数ベースでの従量課金を採用し、特定の業界に特化したVertical SaaSは利用ベースで従量課金をしている企業が多いことが分かった。

顧客がプロダクトやサービスから得られてる価値に比例して、課金する金額も上がる価格体系にすること。この時、その「価値」を表すKPIが何なのかを考える必要がある。

例えば、経費精算システム Expensify は、元々ユーザー数ベースで課金をしていた。そのため、顧客企業は毎月経費精算を行う社員の分だけのアカウントを登録し、時々しか経費精算をしない社員のアカウントは登録しないというケースが多く見られた。
そこで、課金ポイントを『該当月に経費精算をした”アクティブユーザー”』に変えた途端、全社導入のハードルが下がり、全ての社員が気軽にサービスを利用できるようになった。

もう1つの例として、不動産ブローカーや物件オーナー向けの物件管理SaaS VTS は、物件数ベースで課金をしていたため、物件規模に関わらず課金額が同じだった。つまり、小さい物件を管理してる人にとっては割高なサービスで、大きい物件を管理している人にとっては、非常に安価なサービスになってしまっていた。そこで、従量課金をするポイントを、物件数ではなく〈管理している平米数〉に変えることによって、適正な価格で課金できるようになった。

買いずらい(決めずらく)している

「自分の会社にとって最適なプランはどれなのか?」
「導入したら毎月いくらかかるのか?」
特に、営業手法が『セルフサーブ型』や『インサイドセールズ』中心のSaaSは、これらの答えをすぐに見つけられる料金ページを作成すべき。

参考にできる例として、Slackの料金ページでは、それぞれの料金パッケージがどういったチームや企業に向いているのか、そしてどういったメリットがあるのかを明確にしている。さらに『よくある質問』を同ページ内に表示させ、なるべくその場で疑問を解消できる仕組み作りをしている。

アップセルができない価格体系になっている

成長率が高いSaaS企業に共通する特徴の1つは『Negative Churn』であること。Negative Churnとは、退会による売上の減少額よりも、アップセルやアップグレードによる既存顧客の売上増額の方が上回っていること。以下のグラフからも分かる通り、年度成長率100%以上を達成しているSaaS企業は、売上継続率が平均して109%になっている。つまり、今月獲得できた売上100万円は、新規顧客を獲得しなくても1年後には109万円になっているということだ。

例えば、インフラのパフォーマンス監視サービスを展開する NewRelic は、利用しているインスタンスのサイズに応じて従量課金がされるようになっている。つまり、既存顧客はNewRelicのインスタンスを増やせば増やすほど、課金額が上がっていく〈アップセル可能な料金体系〉になっている。その結果、現在売上継続率は123%にもなるという。

別の例として、400億円以上で Atlassian に買収されたタスク管理サービス Trello も、より便利な追加機能の利用やコラボレーションをする相手の数を増やすために、別プランの購入が必要になる。

価格設定がダイナミックに変化していない

SaaS企業の価格設定は、会社のフェーズに応じても変化するべきだ。初期の段階では1つのプロダクトに対し単一の価格を設定したとしても、その後様々な機能が追加されたり、別のプロダクトが展開されたり、新しい業種がターゲット顧客層となるなど、会社がスケールすると共に価格設定もダイナミックに変化するべき。

SaaSの王者である Salesforce も1999年から新たな価格体系を展開しており、初期の価格から6倍値上がりしているプランもある。

価格は最初に設定したらそれで終わるのではなく、変動するものだ。
新しい機能を展開した時、ニーズの異なる新しい顧客属性を取り入れた時、そして、会社の信頼性やブランドが強化された時など、様々な理由やきっかけで見直す必要がある。

価格設定は会社の成長率や利益率に大きなインパクトを与える。
会社の内部で〈価格の最適化〉について常に考え、実行する担当責任者を置くと良いだろう。

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参入障壁を生み出す「13種類のネットワーク効果」

本記事は、https://www.nfx.com/essays を要約したものです。著作者(James Currier)から転載の許可を得て掲載しています。
※一部説明を加えています。

PayPal、Microsoft、Facebook、Uber、Twitter、 Salesforce。どの企業も世界に大きなインパクトをもたらし、そして、大きな「価値」を持つ。

これらの会社に共通することとは何なのか。
それは、彼らが強力な「ネットワーク効果」を持っているということだ。

「ネットワーク効果」は、参入障壁を生み出すための4つの要素のうちの1つ。その他にも参入障壁を作るための要素として「ブランド」「スケール」そして「エンベッド(埋め込み)」があるが、「ネットワーク効果」は、特に強い影響を持つ。

ネットワーク効果とは、同じプラットフォームやサービスを利用するユーザが増加することによって、それ自体の効用や価値が高まる効果のこと。例えば、電子メールを使うユーザーが増えれば増えるほどメールを送信できる相手が増加し、メール自体の価値が高まる、というのも1つの例だ。

ネットワーク効果は、13のタイプに細かく分類することができ、それらは全て大きく5つのカテゴリーに属している。下図は、これら13のタイプをカテゴリー別に色分けしたもの。円の中心にある〈Physical (物理的)〉は、ネットワーク効果の中でも一番強い影響を持つ(参入障壁が一番高い)。円の外にいけばいく程、ネットワーク効果が弱くなる。

これから、ネットワーク効果が強い順に、それぞれのタイプを紹介していこう。

Physical (Direct)
上図で、青色にカテゴライズされているのは「Direct Network Effects」。
一番シンプル、且つ強いネットワーク効果で、プロダクトが利用されればされるほどユーザーに還元される価値が上がる。

フィジカル・ネットワークの分かりやすい例は、電話回線のネットワーク。電話をかける相手が1人しかいなければ「電話」自体に大きな価値は無いが、かけられる相手が増えれば増えるほどその価値は上がる。電話回線を引くという多額な先行投資こそ必要なものの、一旦整ってしまえばマーケットを独占できる程の強力なパワーを持つ。

例:道路、線路、水、電気やケーブルテレビなど。

Protocol (Direct)
プロトコル・ネットワークは、コミュニケーションや情報処理がスタンダード化され、誰でもそのプロトコルに沿ってネットワークを活用できる。

例:FaxやTCP/IP。最近ではビットコインや、イーサリアムなど

Personal Utility (Direct)
パーソナル・ユーティリティー・ネットワークには、主に2つの特徴がある。
まず、ユーザーのアイデンティティー(身元)がネットワークに紐づいていること。もう1つは、ビジネスや個人的な理由で、そのプロダクトまたはサービスが毎日利用されていること。主にコミュニケーションやコラボレーションの手段になることが多い。

例:Facebook Messenger、Slack、SkypeやSMSなど。

Personal (Direct)
パーソナル・ネットワークは、利用者の「アイデンティティー」と「評判」が紐づいているネットワーク。このネットワークを活用して自身の評判を築いている人が増えれば増えるほど、ネットワークに参加するインセンティブも増え、価値も上がる。

例:Facebook, LinkedIn, Twitterなど。

Market Network (Direct)
マーケット・ネットワークは、「アイデンティティー」と「コミュニケーション」の要素に「トランザクション(取引)」の要素が加わったネットワーク。
純粋な取引だけを目的としたマーケットプレイスのネットワークと違って、ワークフローやコラボレーションができるネットワークで、プロとしての評判を築くこともできるのが特徴。

例:Houzz、AngelList、HoneyBookなど。

Marketplace (2-Sided)
2-Sided(2面性)・ネットワークは、「需要サイド」と「供給サイド」という2種類のユーザーが存在するときに生まれる。例えばクラウドソーシングサービスでは、サービスを提供する側(供給)とサービスを受ける側(需要)の2種類のユーザーがいる。

例:eBay、Alibaba、Amazon Marketplace、Etsyなど。

Platform (2-Sided)
プラットフォーム型・ネットワークは、先ほど紹介したマーケットプレイス型とは異なり、供給サイドがプラットフォームに統合させるための開発を行う必要がある。つまり供給サイドは、技術者やプロダクトを開発している会社になる。

例:iOS、Microsoft、Nintendoなど。

Asymptotic Marketplace (2-Sided)
2面性のマーケットプレイス・ネットワークは、1つとして同じになることはない。特に大きく異なるのは、ネットワークへの参加者が増えたときの、「需要の価値」が上がるスピード。以下グラフを見ると、UberやLyftのような「Asymptotic(漸近的な)・マーケットプレイス」(赤色)よりも、eBay や Craigslist といったマーケットプレイス型・ネットワーク(オレンジ色)の価値の上がりかたの方が、早いことが分かる。

例えば Uber や Lyft は、運転手が増えれば増えるほど、乗客にとってのメリットは増える。その一方で、乗客が得られる価値は急激に減少する。
車が捕まるまで8分かかっていたものが、4分になるのは大きな違いを感じるかもしれないが、それが4分から2分に変わった場合はどうだろう?先ほどよりは、価値を感じなくなるだろう。特定のエリアに一定数の運転手や車が集まってしまえば、それ以上増えたとしてもユーザー体験自体はそこまで変わらなくなるのだ。

Data Network Effects
データ・ネットワークは、名前の通りデータが集まれば集まるほど、そのデータを元にユーザーに提供できる価値が上がるということ。
データのネットワーク効果は、人と人との繋がりから生まれるネットワーク効果よりも弱い。それは「Asymptotic(漸近的な)・マーケットプレイス」同様、一定の数を集めてしまえば、それ以上を集めても得られる価値が大きく上がらないからだ。

例:Google、食べログ、Wazeなど。

Tech Performance Network Effects
テックパフォーマンス・ネットワークとは、ネットワークに参加するユーザーが増えるほど、パフォーマンスも上がるというもの。
例えば、BitTorrent のような Peer-to-Peer でファイル共有をするネットワークは、その同じファイルを共有(Seed)しているユーザーが増えることで、ダウンロードのスピードが上がる。

例:BitTorrent、global VPN、Hola

Language (Social)
言語もネットワーク効果の1つだ。世界には、日本語より英語を話す人の方が10倍近く多く存在する。そこから、「英語」という言語によるネットワーク効果の強さの差が生まれる。

人は、何かを検索する時に「ググる」と言ったり、『仮想通貨』といえば真っ先に「ビットコイン」を思い浮かべる。このようにスタートアップは、言語の中に入り込むことによって、言葉のネットワーク効果を活用することができる。

例:英語、日本語、グーグル、ゼロックスなど。

Belief (Social)
宗教など多くの人が信じる概念には、信念のネットワーク効果が生まれる。
最近の事例として、ビットコインの価値を信じる人が増加したことで、ビットコインの価値が急激に上がるという現象が起きたことが挙げられるだろう。

例:ビットコイン、金、宗教など。

Bandwagon (Social)
最後に、Bandwagonは「仲間外れになりたくない」など人間が生きている中で感じる社会的なプレッシャーによってネットワークに参加したくなる効果。

例えば、テック業界でSlackを使ってない会社は、モダンなコミュニケーションを取り入れられていない印象を持たれてしまうことがある。

Appleも、彼らのブランディングやPR活動により「Apple製品を持つことで “クール” な集団の一員になれる」という社会的プレッシャーを生み出すネットワーク効果を構築することに成功している。

例:Apple、Slack、Githubなど。

以上が「13種類のネットワーク効果」だ。

それぞれのネットワーク効果には、特徴や強さの違いがある。自分が展開しているサービスやプロダクトにどういったネットワーク効果があるのか、そして、それを強化するためにはどうすれば良いのかを考えるための参考にして欲しい。

(edited by kobajenne

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