2021年6月8日、支援先のSmartHRが156億円の調達を発表し、彼らはユニコーン企業の一員となった。
思い返せば代表の宮田さんと最初会ったのは2015年。起業して2年ほど経った頃、SmartHRの前身 KUFUで彼らは全く別のビジネスアイディアを形にすべく奮闘していた。そしてその年の春、彼らがビジネスアイデアを「SmartHR」にピボットをしたタイミングで出資させてもらうこととなった。そこから快進的な成長を続けて、直近の発表ではARR 45億円、年度成長率100%+以上というグローバルな視点で見てもトップクラスの成長曲線を描いている。
SmartHRへ最初に出資してから6年が経つが、僕自身たくさんの刺激を受け、学びを得てきた。SmartHRに投資をしていなかったら、今の僕のSaaSに対する愛とコミットメントはなかっただろうと言っても過言ではない。
今回は、SaaS業界のレジェンドになりつつあるSmartHRから学んだ5つのことについて書いていきたいと思う。
組織がプロダクトと戦略の一部
SmartHRから学んだことの中で一番みんなにも伝えたいと思うポイントは、『プロダクトと会社の戦略の一部として組織が存在している』ということ。
お客様目線で考えることを徹底するカルチャーが、強いプロダクトとカスタマーサクセスを実現し、”異常”に低い解約率につながっている。SmartHRのユーザーがサービスの使いやすさについてツイートしているのを見たことがある人も多いのではないだろうか。この圧倒的なユーザー体験はSmartHRにとって強力な差別化要素となっているわけだが、そのうしろにはSmartHR、そしてチームを支え続けるカルチャーが存在している。
SmartHRが戦略を上手に実行できている重要な要素のもう1つは、スピードだ。「早いほうがカッコイイ」というバリューを掲げ、とにかく組織全体のスピード感が速い。
2020年はじめに日本で新型コロナウィルスの感染者が増加してしまったとき。SmartHRがすぐさまリモートワークを意識した広告コピーに切り替え、国内初のZoom撮影したテレビCMを3週間で制作、放映した。コロナ禍で必要な新機能を開発し、需要が高まっている業種を探し出し、応援キャンペーンを実行するというスピーディな動きは、僕にとっても衝撃的だった。
自分の会社の強みは何か?どう差別化していくのか?どんな戦略を実行するのか?
この3つの問いに対しての答えを明確にして、実行に移すための適正な組織とカルチャーを築きあげられたことが、SmartHRがユニコーン企業へと成長できた大きな要因だと僕は思う。
レイヤーを重ね続ける
SmartHRは、新しい顧客セグメントの発掘や顧客獲得戦略への取り組み、オペレーションの改善を重ね続けた。
ローンチ当初は中小規模のIT企業が主な顧客層だったのが、その後対象顧客セグメントを1000人、1万人規模の企業へと展開し、さらに飲食業や製造業などの業界セグメントも広げていった。獲得戦略においても、インバウンドのセルフサーブ型を中心にスタートしたが、インサイドセールスチームを構築したり、マスマーケティングやアウトバウンドなど施策を増やしている。
PMFを達成するまでは、1つのセグメントの顧客獲得に集中して戦略を実行すべきだ。SmartHRは、PMFを達成後、継続的にそのレイヤーを重ねていったことで、非常に高い成長率を実現できている。(参考記事:レイヤーで考えるSaaSの経営と戦略 )
権限移譲と自立駆動の重要性
SmartHR 宮田社長
— 阪井 優|yup (@redxyz_) December 21, 2020
【権限移譲する技術】
1. 自分より専門家を採用する
2. ToDoではなくイシューを渡す
3. 決定権を渡していることを繰り返し伝える
4. 仕事の過程をチェックしない
5. 役割を周囲に周知してあげる
6. 障害になりそうなことを取り除いてあげる
7. 成果が出たらホメる
もし、僕が宮田さんにスーパーヒーローの名前を付けるとしたら「Super Delegation Man (スーパー権限移譲マン)」にすると思う。僕は、このパワーは宮田さんの特別な力だと思う。とにかく自分より優秀な人を採用して巻き込んでいく力がある。そして権限移譲を進めていくスピードと、その成功確率が異常に高いのだ。打ち手の数を増やすスピード、そして組織や事業課題を解決速度を”超高速”にできている究極の秘訣なのではないだろうか。
限界に挑戦する
SmartHRが、固定概念に囚われることなく挑戦し続けられている理由を語るには、経営陣メンバーは必要不可欠な存在だ。今の成長に大きく寄与している。
常により良く、より高い場所を目指す姿勢。特に数字まわりに対する目標はとても野心的である。現状の引き延ばしで来年の目標数値を決めるのではなく「グローバルでもトップクラスの急成長曲線を達成するにはどうしたら良いのか」を念頭に置いて、打ち手や戦略、採用計画を練り上げている。
彼らのこの姿勢は、事業の成長ポテンシャルや限界というものは、あらかじめ決められてることなどではなく、自分で決めるものなのだと言うことを僕に気づかせてくれた。(参考記事:ストレッチ目標を実現する鍵は「達成可能性70%」にある)
正しくやれば正しく成長する。これがSaaSだ。
最後にみんなに共有したいポイント。それは「SaaSは、正しくやれば正しく成長する」ということ。
お客様に寄り添ったプロダクトを作り、カスタマーサクセスを組織全体に浸透させる。優秀な人を巻き込んで、戦略に紐づいた強い組織を作る。レイヤーを積み上げて打ち手を増やす。そして野心的になる。
これは決して簡単なことではない。でも、不可能ではない。
SmartHRのような素晴らしいスタートアップが誕生したことで、正しく成長できるSaaSのプレイブックがこの業界に出来上がりつつある。(参考サイト: ALL STAR SAAS PLAYBOOK)
これが僕がとくにみんなに伝えたい〈SmartHRから学んだ5つのポイント〉だ。
他にも書ききれないほどの学びが沢山あったし、今も現在進行形で毎日学びや刺激をくれている。本当に感謝しかない。『SmartHR』という物語は、まだまだ始まったばかり。企業も人もまだまだ伸び盛りと言って良いだろう。「いつの日か、デカコーン企業(時価総額1兆円以上)になる。」そんな夢を描きながら、これからも一緒に成長できるのがとても楽しみだ。
まだまだ旅路は続くけれど、ここで一回伝えたい。
SmartHR、ユニコーン企業入りおめでとう!
そしてこの旅に僕も参加させてくれたこと、本当にありがとう。
そして最後に。日本のSaaS業界にとって、この動きはまだまだ序盤だ。これから数多くのSaaSユニコーンが生まれ、日本を支える存在になってくれると僕は信じている。
(編集してくれたkobajenneに感謝)