T2D3は、ただのロマンじゃない 〜この成長曲線には戦略的な意味がある〜

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「T2D3」

SaaS業界に関わる人であれば馴染みが深い言葉だろう。PMFを達成したARR 約1〜2億円のタイミングをT1のスタート地点として、そこから毎年Triple(3倍)、Triple(3倍)、Double(2倍)、Double(2倍)、Double(2倍)のペースでARRを成長させる曲線のことをいう。「T2D3」とは、ARRを5年で72倍にするということだ。

ServiceNow や Marketo 、Zendesk など名だたるSaaS企業が、このT2D3を実現させていて、SaaS業界のトップクラスのベンチマークとして利用されている。今回のブログでは、この「T2D3」を目指す意味、そして達成するためのポイントについて触れたいと思う。

T2D3は、戦略的に良い目標である

T2D3を目指すことは、戦略的な意味がある。

T2D3の達成は評価される

T2D3を達成しているSaaS企業は、まだ少ない。達成することができれば、国内でも有数のARR 100億円以上の高成長SaaS企業として評価されるのだ。以下のグラフからも、ARR 100億円以上で年度成長率25%以上のSaaS企業(赤点線枠)は、その他のSaaS企業より高く評価されていることが分かる。

この背景には、「大きな市場のマーケットリーダー」として見られやすくなることが挙げられる。

*東京証券取引所ウェブサイトおよびSaaS上場企業各社の決算資料のデータに基づくALL STAR SAAS FUND独自分析。

組織が程よく“ストレッチ”する

2021年のALL STAR SAAS CONFERENCEに登壇してもらったSmartHR COOの倉橋さんは、T2D3を「壊れない、最高成長速度の良い目安だ」と言及していた。経営者の役割は、「いかに大事なものを壊さず、速いスピードで成長できるかが重要だ」と彼は言う。

目標が低すぎてしまうと進化のない組織になってしまい、はたまた高すぎれば未達に慣れた組織になってしまう。T2D3は、進化する組織を求め続けられる極めて難しいけれど不可能ではない程よいストレッチ目標だ。

SaaSは規模を早期に大きくした方が有利

SaaSは、先に大きくなった方が有利になる。ARR 100億円のSaaS企業と比べて、ARR 10億円のSaaS企業は、雇用できる人数と先行投資に回せる金額が少なくなってしまうことは想像に難くない。最短でARRの規模を大きくして、「人」と「資金」で競合との優位性を築くべし。

T2D3達成で重要なポイントは?

まず、まだ読んでいない人は「SmartHRが“T2D3”を目標にしたら何が起きたか:COO・倉橋隆文と5年間を振り返る」を是非読んでみてほしい。ここには、T2D3を目指すために重要なエッセンスが詰まっている。

この記事にも書かれている重要なこと。それは、戦略を決めるときは、目の前でなく常に先の目標を達成するために「組織」や「オペレーション」をどう進化させるべきかを考えるということ。

例えば、組織のことでいうと、T2D3を達成するためにはとにかく人がいる。350人以上の大きな規模のチームを築くことを想定すべし。この時、目標設定やコミュニケーション、人の配置、オンボーディングなど様々な面で、組織を進化させていく必要がある。進化が間に合わなくなれば、たちまちパフォーマンス低下や、組織崩壊が起きやすくなってしまう。

そして、数字を達成するための戦略も、新しい顧客セグメントの開拓やARPAの向上など適切なタイミングをしっかり捉えて実行に移さなくてはならない。成長率が鈍化してからでは、遅い。鈍化の兆候を先読みして、先手を打つのだ。

T2D3を目指す経営者には、この2つの問いに対する答えをいつも持っておいて欲しい。

「来年の目標を達成するためにプロダクト、組織、そして戦略がどんな状態になる必要があるか?」

「上記の状態になるために必要なアクションが既に実行済みであるか?もし実行にうつしていない場合はいつまでに実行する必要があるか?」

最後に

「T2D3」は、どんなSaaSスタートアップにも目指して欲しい目標だと僕は思っている。でも、「もしT2D3の成長曲線を描くことができなければ、終わりなのか」と言うと、それは違う。PMFを達成させることができて、市場が魅力的なのであれば、T2D3曲線から外れているとしてもさらなる成長の可能性は十分ある。

仮にARR 3億円で年度成長50%で成長しているSaaS企業がいるとしよう。その成長率を何とか10年間維持させることができれば、ARR 100億円を超える高成長率SaaS企業の仲間入りだ。もしこの50%を55%の年度成長率に加速できれば、さらに1年早くARR100億円を達成できることになる。

どんな状態であれ、常に「壊れない、最高成長速度」を探し続けるべきだ。これは戦略的にメリットが多く、より優位なポジションに立てるからだ。

(記事の編集してくれたkobajenneに感謝)


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