部下との認識のズレを無くし、企業文化を強くする「経営者のトリセツ」

Airbnb、Coinbase、Instacart、Stripeなど数多くのデカコーン(時価総額1兆円以上)企業に投資を実行し、アドバイザーとしてたくさんの企業の成長を支援してきたElad Gil氏。

”起業家のバイブル”とも呼ばれる彼の著書「HIGH GROWTH HANDBOOK」の日本語版「爆速成長マネジメント」の発売にともない、3月17日にEladと一緒にウェビナーを開催することになった。当日は、企業を急成長させるための秘訣について、1時間みっちり深ぼってディスカッションしていきたいと思っている。

英語版が発売された2018年にStripeのPatrick McKenzieさんから「絶対読んだ方が良い」と渡されたことがきっかけで手に取ったこの本は、今も僕の本棚の手に取りやすい場所に在り続けている。

今回は、僕がこの本を読んで一番印象に残ったチャプター『経営者のオペレーションガイド』を紹介したいと思う。これは、StripeのCOOであるClaire Hugh Johnsonが実際にStripeで実践している取り組みで、「Claireがどんな事に関わりたいのか」「どんな時に話しかけて欲しのいか」「どんなコミュニケーションを好むのか」などが細かくまとめられている。簡単に言えば、”Claireの取扱い説明書” みたいなものだ。

この取り組みのメリットは2つあると思っている。

1つは、周りがClaireと連携したり、彼女を巻き込みたい時にどうすれば良いのかが分かりやすくなるということ。コミュニケーションスタイルを明文化することによって、誤解が生じることがなくなるし、彼女がどんな行動を評価しているのかも明確になるので、組織の文化作りへの貢献にも繋がる。

もう1つのメリットは、オペレーションガイドを書いている本人の自己認識を高めるきっかけになるということ。自分の強みや弱みが何なのか。改善すべきポイントを振り返ることができる。

では実際にどのようなことが書かれているのか。

以下に、Claireの「オペレーションガイド」を一部抜粋して翻訳したものを紹介する。
(*実際のガイドの内容を意訳しています。また、より分かりやすくするため内容を一部省略・消去しています。)

まず、皆さんと一緒に仕事ができることをとても楽しみにしています。

オペレーションのアプローチ

  • 隔週または週に一度の1on1。計画を立てることができるように、時間を一定に保つようにします。私は、議題やアクション、目標、アップデートを追跡できる共通の1on1ドキュメントを使うことを好みます。
  • 毎週のチームミーティングは、アップデートと意思決定・仕事のレビューの両方をする場と認識しています。テレビ会議の設定や時間帯の調整は必要ですが、皆さんが準備をしてミーティングに参加すること期待しています。
  • 四半期ごとのプランニングセッションでは、万全な事前準備を行い、チームやパートナー(社内外)と共にその後のフォローアップもしっかり行っていきたいと考えています。
  • ストライプとは別の事業を検討する会議を実施する可能性もあります。でも、プランニングをしながら、きちんと仕事をマネージできるよう頑張っていきます。どうぞご期待ください。
  • 1on1について
    • 一緒に仕事をし始めてから数ヶ月経ったところで、あなたの経歴や将来の野望、あなたが今まで選択してきたこと、その選択をした理由などを聞きながらキャリアセッションを行います。これは、長期的な個人のキャリア・プランに対して、あなた今在どのような位置にいるのかを知るために役立ちます。
    • 四半期ごとに、あなたの個人的な目標の上位3~5つを私たち2人でレビューしていきましょう。四半期ごとに話し合い、その目標を達成するために必要な時間やスペース、サポートを明確に知り、計画を立てていきます。私は、3〜6ヶ月ごとにこれを実施して、みんなにも私の個人目標を共有していきます。
  • あなたのチーム
    • チームや、日々の業務を理解するために私が参考にできそうなメール(FYIとしCCをしたり転送したり)やドキュメントがあれば、積極的に私を追加して共有してください。
    • 仕事が順調に進行していたり、チームのメンバーが素晴らしい仕事をした時は、その内容を転送したり、私たちの1:1ドキュメントにリンクしたりして教えてください。私は、WIP(Work in Progress)を見るのが好きで、素晴らしい仕事をしてくれた人たちに会えることがとても嬉しいのです。

マネジメントスタイル

協調的

  • 私は、決定事項やオプションについてグループ内で議論したり、大きな事柄をホワイトボードに書き出したりすることが好きです。1つの立場や意見に固執することはほとんどありませんが、欠点としては、物事をすぐに判断するとは限らないということがあるでしょう。私は話をしながら、いくつかのアイデアやデータ、オプションを参照して判断しようとします。そのため、私の決断には時間がかかることがあります。すぐに決断をする必要がある場合は、そのことを私がしっかり認識できるようにしてください。

ハンズ・オフ

  • 私はマイクロマネージメントをするタイプではありませんし、物事が軸から外れていると考えられる場合を除いて、細かいところを気にすることもありません。もし軸から外れているとなった時には、懸念していることが何なのかを伝え、一緒にプランを立て直します。だから、私がプロジェクトやチームに参加したばかりのタイミングではハンズオンで参画します。これは、のちにもし私のサポートが必要になった時に、どのようにサポートすべきかを把握しておくための方法なのです。
  • 私がいなくても、あなたはたくさんの決断をしていると思うし、もしあなたが私のところに来たら、たいていは「あなたはどうしたいのか。」「どうしたらいいと思うのか。」と聞きながら、あなたを決断に導くための手助けをします。とはいえ、何か大きなことがあれば、それについて知りたいし、いつでも相談にのります。私は、あなたとあなたのチームで何が起こっているかを知るのが好きなのです。

整理と責任

  • 私は、アクションアイテムをとても重要視します。一つ一つを追いかけるようなことは好みませんが、物事がスムーズに進捗しなかった時には気がつきます。期限の再調整を行うことは良いのですが、その再調整のタイミングが期限の翌日になったりするのはイライラします….
  • 先手を打って対応できたかもしれないことができておらず、その仕事の対応に没頭している人から土壇場になって私に声がかかるのは好きではありません。大きな仕事はなるべく先回りして着手し、一緒に進めていきましょう。同様に、リソースは限られているからこそ優先順位はある意味 ”冷酷” になって見極めて決めて欲しい。皆さんには、そして私自身も正気であり続けなくてはいけません。

データ・ドリブン

  • 私はデータやダッシュボードが好きなので、進捗状況や結果を客観的に測定するするのは好きですが、データにとらわれたり、数字をいじったりするのは嫌いです。何が本当に重要なのか、一貫性のある情報を見直し、データを使って洞察を得るようにしましょう。
  • 私は、それぞれが個別のプロセスやフレームワークを持つより全員が「どのように物事を実行するのか」の合意を得たいと思っています。
  • 私たちが何かを議論している時、あなたが私たちの決定に役立つデータを持っていたり、思い当たるデータがある場合は、ぜひ教えてください。

でも直感的な面もある

  • 私はまた、事実やデータがあまりない状況でも、人やプロダクト、そして意思決定に直感的に対応することもあります。「ああ、彼女はすぐに結論に飛びつこうとするのだろう」思われがちですが、私はそのような人間にならないように努力してきました。最終的には、私は良い直感を持っていると思いますが、私はそれに縛られないようにしています。あなたの ”仕事” は、私の本心を読み取りながら議論することです。私はより良い結果に向けて熱く議論するのが好きです。
  • 私はよくタレントマネジメントで直感を使っていて、人のことを「読む」のが上手だと言われます。繰り返しになりますが、私は物事をジャッジしたり、結論に飛びつくことがないよう努力しています。でも同時に、あなたのチームメンバーについて仮説を立てます。あなたの仕事は、私が、あなたやあなたのチームメンバーについて本当に正しく知ることができているかどうかを確認することです。

コミュニケーション

1on1s

  • 口頭で話し合った方が良いトピックスや、毎週の1on1の機会まで待つことができる場合は1on1を使って話をしましょう。メールは時間を取られるので、賢く使いましょう。
  • しばらく1on1がない場合は、もちろん気軽にメールなどを使って連絡してください。

Email

  • 私は受信したEメールは素早く読むようにしています。でも、左腕に軽度の手根管症候群があり、超長文のメールを書くのが好きではありませんし、生産的だとも思いません。
  • 私は、受け取ったすべてのメールをその日のうちに読んでいますが、読んだことを知らせるために返事をすることはありません。皆さんが私に送信したメールは、18時間以内には読まれていると思ってください。ただ私は、質問やリクエストを受けている時にしかそのメールに返事をしません。もし、返事をすべきメールなのに返信がないと言う場合は、遠慮なく催促してください。私はそれで怒ることはありません。

チャット

  • 緊急、重要、タイムリーなことならば、いつでも自由に連絡してください。
  • 短い質問は問題ないのですが、私はミーティングに入っていることが多いので、すぐに回答ができないことも多いと思います。
  • 話したいトピックが長いもので、緊急度が低いものならば、1:1で話しましょう。

フィードバック

  • 好きです。フィードバックは、与えることも好きですし、受け取るのも好きです。特に建設的フィードバックは大好物です。四半期ごとに公式フィードバックセッションも行いますが、私が何かを見たり聞いたりした時には、タイムリーに共有します。皆さんも、同じようにしてください。覚えておいて欲しいのは、何を聞いても、何を見ても、私はあなたの味方です。気になった時には言う。もし、あなたのことで私に愚痴をこぼす人がいたならば、直接あなたに伝わるように徹底させます。

人とマネジメント

  • 私は、あなたとあなたの部下、そしてあなたの成長を大切にしています。私があなた個人、そしてチームの育成について定期的に話すことができているかを常に気に留めておいてください。スーパースターが現れた時でも、チャレンジングなことがあるときでも、みんなで助け合いたいと思っています。

結果

  • 良い結果を出すためには、測れる目標が重要です。

ヒューモア

  • 最後に、大笑いして、一緒に仕事をしている人たちと共に楽しむのが好きです。

以上が、Claireが書いた自身の “取扱説明書” の中で僕が特に関心を持った一部を抜粋したものだ。

このドキュメントは、従業員のオンボーディングで活用できると思う。カルチャーの理解、コミュニケーションの仕方、評価される行動やバリュー、良いリーダーの定義などがこのドキュメントに凝縮されている。

新しく入った社員は、仕事をしながら試行錯誤をしながら会社に「フィット」していくわけだが、このように言語化することによって、フィットするまでのスピードが格段にアップするのではないだろうか。

起業家、経営者、そして部下を持つリーダーも、自身の ”トリセツ” を作ってみてはどうだろう。

最後に。Eladの「爆速成長マネジメント」には、Eladのこれまでの経験や知識に加えて、こうした爆速成長企業が実践している様々な施策が載っている、まさに盛り沢山な一冊だ。

今回の投稿で紹介したのは、その中のほんの一部を切り取ったものだが、これだけでもこの本がなぜ「バイブル」とまで呼ばれ、起業家に愛され続けているのかが分かるのではないかと思う。

3月17日、直接この本の内容についてより深くディスカッションできることをとても楽しみにしている。

イベント参加申し込み受付中。詳細はこちら(2021年3月16日(火)午後12時まで)

※ 3月14日(日)午後3時までに参加申し込みをしてくれた方限定で、Eladに聞いてみたい質問も募集中。

ぜひご参加ください!

(編集してくれたkobajenneに感謝)


前田ヒロのメールマガジンに登録しよう!

最新の記事やポッドキャストをいち早くお知らせします!


重要なのは、チームのバランス。 海外投資家からの注目も集めたIPOを実現した舞台の裏側。

去年末に上場した注目のノーコードSaaS「Yappli」を展開する株式会社ヤプリ。今回は、ヤプリのCFO角田 耕一さんとのエピソードです。ARR 1億円前後から同社に参画した角田さんが、ヤプリでどんな経験をしたのか、そして海外投資家を巻き込んだIPO準備のプロセスについて聞きました。

【ハイライト】

  • 庵原さんとの最初の出会い
  • 最初はヤプリのCFOになることを断った話
  • CFOとしてジョインして最初に実行したこと
  • ARR別でCFOの役割がどう変化したのか
  • 上場準備をどう進めたのか
  • 海外比率と機関投資家の比率を高くした理由とは
  • 海外投資家の日本SaaSへの興味と理解
  • IRでは、どの程度の英語力が必須なのか
  • 代表 庵原さんの良さとは
  • 良いCFOとは
  • 外資のインベストメント・バンカーの採用について

Apple Podcastへのリンク

Spotify Podcastへのリンク

(ポッドキャスト編集してくれたkobajenneCityYumeに感謝)


前田ヒロのメールマガジンに登録しよう!

最新の記事やポッドキャストをいち早くお知らせします!