先日、AnyPerkの福山太郎氏を招いて、イベントを開催した。ディスカッションのテーマは「アメリカでの会社経営」そして「SaaSビジネスのグロース」。福山氏は、日本人として初めてYCombinatorに参加し、今はシリコンバレーで50人規模の会社を経営している。今回は、このイベントで話をした内容の一部を公開することにした。
正しい決断と快適な決断
会社の規模が大きくなると、経営者としての一番重要な仕事は、考えること。ここに一番時間を割くようにしている。特に苦労してきたのは、「決断」するとき。この「決断」には、2つの種類がある。1つは、「Right Decision (正しい決断)」もう1つは、「Comfortable Decision (快適な決断)」だ。「正しい決断」と、「快適な決断」のいずれかで迷ったときは、できるだけ「正しい決断」をとるべき。ビジネスを行ううえで、実践したいことは山ほどあるが、半年に1度、その時点での「会社にとって大事なこと」を決断したら、そのポイントだけに注力すべき。
経営者の仕事
経営の仕事は4つある。
- 一体感のあるチームを作ること
- 「Clarity」という明確なビジョン・ゴール・ターゲットを作ること
- オーバーコミュニケートすること
- Reinforce(補強する)すること
そして、会社のリーダーは、以下6つのポイントを正しく理解し、いつでも言葉にして、これらの問いに答えられるべき。
- なぜ会社は存在しているか
- どんな行動(behavior)を求めているか
- 何をする会社なのか
- どうやって勝つのか
- 今一番大事なことは何か
- 誰が何をやるのか
これら6つの要素の中で「なぜ会社は存在しているのか」は、経営者自身が決める。でも、「どんな行動を求めているのか」を決めるのは、経営者本人ではなく最初に入社した社員の20人。会社の文化は “性格” みたいなもので、性格が一致して好き嫌いが同じであればあるほど摩擦が少なく、事業を早く成長させることができる。その好き嫌いを綺麗に整理することが、リーダーの行うべきことであり、文化は、初期のチームメンバー20人の性質から抽出し、決まる。
上記以外の要素は、マネージメント層の仕事となる。社員に文化を伝える方法としては、常にオーバーコミュニケートしていくことが大切。オーバーコミュニケートとは、言い続けること。社員から煩がられても言い続けること。但し、ただ言い続けるのではなく、会社としての仕組みに組み込んでいくことが大切。例えば、人材採用の際に、会社の文化として共有しておきたいことを面接フォーマットを入れておいたり、3ヶ月に1度程度のタイミングで、会社が推進する行動を実践したメンバーを表彰するなど、積極的に仕組みに入れていくことで強化することができる。
チームが30人程度の規模までは、チーム全員を見渡すことができるので、メンバーが何を考えているのかなどチームの状況を経営者自身で把握することができる。でも、30人を超えたところで、創業初期からAnyPerkを作り上げてきたメンバーと、「会社をもっとよくしたい」と考える新しいメンバーの間で対立が起き、2つのグループに分かれる。メンバーが多くなればなるほどチーム全員と個別に話をすることが難しくなり、チームと経営者の間にマネージャーが入るスタイルに変化する。
アメリカで会社を経営するにあたり、日本人が難しいと感じるポイント
アメリカで日本人が会社経営をしていて、難しいと思うポイントは、「正しい決断」、「快適な決断」のなかで、「正しい判断」をし続けること。例えば、投資家に定例ミーティングを入れて欲しいと言われても、無駄と思ったことは「無駄」と言える勇気が大切。自分の弱みを認めたり、自分ができないことをきちんと伝えたり、ミスをしたら謝ることができる能力のある人が伸びる。リーダー1人の知識では、できることに限りがある。適切な人間からのフィードバックを取り入れて動かなくてはならないので、自身の弱みを認めて成長することが重要。
リーダーはレバレッジを効かせ、人材、投資家、外部のアドバイザーなどを含む “有能な人間” をどれだけ振り向かせることができるかにかかっている。例えば、有名なアドバイザーにはストーカーのように連絡をする。会いたい人のリストを作成して、毎月必ずそれぞれにパーソナライズされたメールを送ったりしている。「あなたのこのツイートを見たけれど、僕はこう思うんだ」のような内容のメールを送って、最終的にアポイントが取れたら勝ち。
SaaSの検証
これから起業してサービスを展開させようと思う人がまず検証するべきことは、売れるかどうかを検証すること。MSP (ミニマム・セラブル・プロダクト)を作り、それを徹底的に検証する。「このサービスは、売れるのか、売れないのか。」これが唯一信じられること。AnyPerkのMSPは、デザイナーが作ったプロダクトのモックで、最初の課金ユーザーを獲得することができた。サービスが売れるという手応えを感じたら、次に検証すべきことは「売上がどれだけ伸びているか」、そして「解約率がどれだけ低いのか」。最初の1年で売上が伸びたら、あとは解約が低いことを祈る。また、アップセルを狙うために、「利用料金を2倍に値上げする場合に何が欲しいか?」を1年後の契約更新の際にユーザーに聞いて追加するサービスや機能を決めて開発をしている。もしも、チャーンレートが月次で2%を超えたら、状況を見直し改善する必要がある。
SaaSの1:1:1の法則
理想なレートは、【バーンレート: 1、チャーンレート:1、アクイジション・コスト:1】の状態。
バーンレートは、どれだけ会社がお金を使っているか。年始から年末の減った金額と、トップラインの売り上げの上がりが 1:1 がよい。もし3億円の売上を10億円に伸ばそうとする場合、結果的に7億円分の利益があがることになるので、その目標を達成するためには、7億円分のキャッシュを使って良い。
チャーンレートはどれくらいか。
“グロスチャーン” (既存顧客の退会により失う月額売上) が、1%未満であること。そして ”ネットチャーン” (既存のお客さんが追加でオーダーした分の売上をネットチャーンにプラスした売上) の増加が毎月1%以上であることが理想だ。1,000ドルの売上のうち、10ドルの解約があっても、ユーザーが20ドル分追加で購入した場合、売上は1%増える。
そして最後に、1社あたりのアクィジションコスト(獲得コスト)は、その1社の売上の1年分のに抑えること。
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