自分の「AIナラティブ」は、信じてもらえるのか?

あなたの会社もこんなことを考えていないだろうか──どうすれば、自社をAI企業として再ポジショニングできるか、と。

プロダクトにAIを組み込んだ。「AI企業」としてAIエージェントで勝負した。ウェブサイトのコピーも書き直した。発表もした。でも、投資家の反応はどこか薄い。ユーザーの熱量も期待したほどではない。「何かが足りない」のは分かっているけれど、それが何なのかが言語化できない。

同じ「AI」を掲げているのに、なぜあの会社は、信じてもらえるのか。なぜ自分たちはそうじゃないのか。僕が今考えている答えは、「人間に信じてもらえるかどうか」だ。ウェブサイトにAIと書いても、誰も振り向かない時代になった。「AI-Firstプロダクト」すら、もはや差別化の言葉じゃない。

では、何が『信じてもらえる』ナラティブをつくるのか。今日は、その問いを一緒に考えたい。

「やっている感」は、通用しない

自分たちがやってきたことは、マーケットが見抜いてしまっているのかもしれない──

既存の機能にAIを組み込んで「AI-powered」と打ち出したが、それがビジネスにどんなインパクトをもたらしたのか、まだ数字で語れていない。AIエージェントを発表したが、利用データも顧客の成果も示せない。投資家向けプレゼンではAIを語るが、プロダクトのアーキテクチャもチーム構成もロードマップも2年前と同じ……

そこには、動かなければならないプレッシャーがあった。だから動いた。それは間違いじゃない。

でも、マーケットはすでに「抗体」を持っている。表面的なAIの主張は、プラスになるどころか、信頼を静かに削っていく。マーケットは、想像以上に賢い。

AIが進化した先に、あなたのプロダクトはどうなるか?

AIが進化すればするほど、自分たちのプロダクトは強くなるのか。それとも、代替されるのか。

あなたは、この問いにどう答えるだろうか。その答えがストーリーとなり、ナラティブの核になる。

AIが進化し続けたとき、自身のプロダクトはバリューチェーンのどこに位置するのか。理想は、LLMの進化とAIの普及によって、自社プロダクトの価値が高くなり、利用を増やす構造になっていることだ。

SnowflakeのCEO Sridhar Ramaswamyは、そのロジックを明確に語っている。LLMが進化するほどデータ量は増え、アクセス需要が高まる。つまり、AIが普及すればするほど、Snowflakeの利用も増える。「データのガバナンスと分析のプラットフォーム」から「AIネイティブなアプリケーションとワークフローを構築・実行するプラットフォーム」へのビジョンは、その構造的なロジックの上に立っている。

Figmaは、少し異なるアプローチを取った。自社プロダクトがClaudeと連携することを発表し、FigmaがAIに向かって走っている姿勢を鮮明にしたのだ。FigmaとClaudeの間には多くのシナジーがあることを示し、さらにAIモデルをプロダクトに組み込み続けることで、Figmaのツールをより強力にしていくと宣言した。このClaude連携の発表は、Figmaが市場予想を上回る業績、NRRの向上、営業利益率の改善を発表したタイミングと重なっている。

どちらの企業も「AIを使っています」とだけ言っているのではなく、AIの進化が自社の成長につながる、構造的なロジックを示している。それが、信じてもらえるナラティブの正体だ。

それでも、数字はすべてだ

「数字を出せ」と言われるのはわかっている。でも、何の数字を、どのレベルで示せばいいのかが、実はまだ誰にもわかっていない。

ただ、一つだけ確かなことがある。成長の再加速、突出した収益性。これ以上に強いナラティブはない。Figma、Snowflake、Shopify、Palantirのように成長の再加速やマージンの改善を実現した企業は、相対的に良いマルチプルで評価されている。

でもここには、AI時代における「良い数字」のベンチマークが、まだ定まっていないという問題がある。Rule of 40、NRR、Gross Margin──従来のSaaS指標は、AIがコスト構造と成長カーブを同時に変える世界では、再解釈が必要になるだろう。

Palantirは、興味深い事例だ。売上$4.4B超でRule of 40スコアが127。異例な数字だ。でも、これが新しいベンチマークなのか、それとも唯一無二のアノマリーなのか? 僕は後者だと思っている。つまり、Palantirをベンチマークにしても、自社の文脈では意味をなさない可能性が高い。

だから問いはシンプルになる。自社のピアセットはどこか。そこと比べて、速く成長し、効率的に動けているか。

最高のAIナラティブとは、結局のところ「期待を超える数字」なのだ。

社内でのAI活用は、強烈なシグナルになる

チームにAIを使えと言っている。でも、自分自身はどうだろうか。

投資家がかなり敏感に反応するのに、自分が意外と見落としてしまうポイントがある。それは、創業者やCEO自身が、AIとどう向き合っているか、だ。

“We don’t just sell AI. We run on it.”
(AIを売るだけでなく、自分たちがAIで動いている)

この姿勢を体現しているのがShopifyのCEOだ。彼はこれまで以上にコードをコミットしているという。社内メモにはこう書かれている。

“Reflexive AI usage is now a baseline expectation at Shopify.”
(AIを反射的に使うことが、Shopifyにおける基本的な期待値になった)

追加の人員を要求する前にAIでできない理由を証明すること。AI活用能力が人事評価と採用の判断基準に組み込まれたこと。プロダクトデザイナーはすべてのプロトタイプにAIツールを使うこと。彼はこれを、生存のための必須条件と位置づけている。

PLほど直接的なシグナルではないかもしれない。でも、企業の「本気度」をマーケットに伝えるシグナルとしては、強力だ。

すべてが同じ方向を指しているか

数字は出している。ストーリーも語っている。社内でのAI活用も進めている。でも、それらが一つの方向を向いているか、と問われると、自信を持って答えられない。

信頼されるAIナラティブとは、数字、プロダクトストーリー、顧客の成果、社内のAI活用、組織の意思決定──すべてが同じ方向を向いている状態のことだ。一つでも欠けていたり、矛盾していたりすると、マーケットは敏感に反応する。AIの追い風を語ることと、証明することは別だ。現実がナラティブと一致していなければ、すぐに見抜かれる。

今、あなたはこの問いにどう答えるだろう:

  • 成長率と効率性の指標は、AIストーリーを裏付けているか?
  • AIのバリューチェーンにおける自社のポジションと、AIの進化がなぜ自社にとってプラスなのかを語れるか?
  • それを証明する、リアルな顧客の成果があるか?
  • 社内の行動は、マーケットに語っていることと一致しているか?

AIナラティブの競争で勝つのは、最も高度なAIを持つ企業ではない。ストーリーに一貫性があり、あらゆるレイヤーでエビデンスに裏打ちされている企業だと考える。

完璧な答えはまだ僕にもない。ただ、一つだけ確信していることがある。

AIの波に乗ろうとするあまり、自社の数字から目を背け、ストーリーの綻びに気づかないふりをしながら「AI企業」を演じ続けることは、いつか必ず限界を迎える。

数字とストーリーと行動で、本気度を証明し続ける企業だけが、最終的に市場の信頼を勝ち取る。

このテーマについて一緒にディスカッションしたい起業家がいれば、ぜひ連絡してほしい。

(記事の編集してくれたkobajenneに感謝)


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