立ち上げ期のSaaS起業家が、あと24ヶ月頑張る4つの理由


Photo by: Pavel Baramov

SaaSスタートアップの立ち上げには時間がかかる。プロダクトマーケットフィットをし始めるまでに、だいたい24ヶ月かかる(SaaSのプロダクトマーケットフィットについては、この記事を参照)と思っていて良いくらいなのだが、ほとんどの起業家は、早く諦めすぎてしまう傾向がある。そこで今回は、なぜあと24ヶ月頑張るべきなのか、その理由について書いてみた。以下のような傾向が一つでも当てはまるなら、後24ヶ月頑張ってみても良いのかもしれない。

自身のコネを使わずに、新規開拓した有料顧客が10社いる場合

友人や親戚など自分のコネクションに頼らずに得た新規の有料顧客が10社でもいるのなら、それは今後の展望が見込めるサインかもしれない。この10社は、少なくともそのプロダクトやさサービスに費用を投じることによって、自社が抱えている課題を解決してくれている、または解決してくれるかもしれないという期待を持っていることになる。この数が10あるならば、それは今後100に増える可能性を潜めている。顧客が解決してほしい課題は何なのか、そして実際に解決してくれた問題は何だったのかを探ることで、事業をさらに拡大させるためのヒントを得ることができるだろう。

MRRが、月次10%以上成長している場合

月次売上100万円しかない時点での月次10%のMRR成長は、非常に小さく感じるかもしれないし、全く成功していないと感じるかもしれない。でも、SaaSは複利的に成長するということを常に頭においておくべき。この10%を維持することが出来たら、12ヵ月後にはMRR 300万円で、24ヵ月後には900万円になることが予測できる。ということは、MRR1000万円が見えてきたタイミングで、やっと成長を感じられる楽しい時期が始まる。

会社の売り上げが小さいと感じてる時は、とにかく10%成長をどう維持できるのか、もっと言えば、20%成長にもっていくためにはどうすれば良いのかを考えると良い。

アップセルが発生した場合

既存有料顧客が、より費用の高いプランにグレードアップしてくれた、または課金方法を従量課金にすることができた場合。その顧客の満足度が高い証拠であり、これは非常に良い傾向だ。他の顧客に対してもその満足度の高さを再現できるかどうかが分かれば希望がある。

大手企業が顧客になった場合

実績もなく、来年はどうなっているのか分からないスタートアップのサービスまたはプロダクトに対して、大手企業が予算枠を取って社内の稟議通して顧客となってくれたとき、その企業は新しい大きな機会を探ろうとしている可能性がある。もっと話を深く探ることで、求められているものが何なのかを見つけることができる。この流れが、大手の顧客をさらに10社手に入れるための手がかりになる。

逆に、諦める理由があるとしたら・・・

どう考えてもARR 20億円以上の市場規模が無いと思ったとき。M&Aを狙うか、またはVCが入っていない状態であるならば、ARR 20億円の市場規模でも十分なのかもしれない。でも、IPOを狙っているのであれば、少なくとも早い段階でARR 50億円のポテンシャルは欲しいところだ。

SaaS企業は、プロダクトマーケットフィットを見つけ出すまでにかなりの時間を要することが多い。「成長が遅い、進んでいる気がしない」と感じたときでも、上記のような傾向がある場合は、まずは〈24ヶ月〉頑張ってみてほしい。

(edited by kobajenne

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SaaStr シリーズ:ARR 1億円から10億円へ 〜 ストレス無く成長する方法


Photo by: Carl A

今日から、このブログのコンテンツの一つとして、アメリカ最大のSaaSコミュニティー『SaaStr』に投稿されてる記事の中で、僕が皆に届けたいと思う記事を翻訳して、皆に届けていきたいと思う。(すべての翻訳記事掲載については、SaaStrから掲載許可を得ています)

今回の記事は、2011年にAdobeが買収した電子サインサービス「EchoSign」を創業、その後SaaStrを創業したJason Lemkinの記事。(元記事はこちら

自分の過去の経験と学びを基に、ARRを1億円から10億円へ、もっと早く-そしてもっとストレス無く達成するための方法10項目をリストアップした内容。

1. 問題解決にかける時間をより少なくして、諸問題を取り扱うシニア人材の採用活動により多くの時間を割く

これは自分が何度もやりがちであったミスで、一緒に働いてきた多くのCEOたちにも見られることだ。ARRが1億円程度に達成したら、もう採用活動に充分な時間をかける人は誰もいない。

もっと酷いのは、すべてを自分でやろうとして、自分で解決することで言い訳をする時だ。

そう、あなたは自分でセールスチームを管理することも、ドリップマーケティングキャンペーンを行うことも出来るだろう。プロダクトが複雑になってきて、どう全体を組み合わせていくのかを忘れ始めたとしても、あなたがまだProduct headの役割を担うことはできると思うだろう。

だが本来は、このような問題を取り扱うことができるVPを採用することに時間を費やす方が良い。 こういうことこそが、ARR 1億円 を達成した会社のトップがフルタイムで行うべき仕事の全てなんだ。自分で何でも問題解決しようとすることが一番時間の無駄で、例えぴったりの人材がいても、その人を雇用しないための言い訳になってしまう。

2. 主要な取引パートナーを数社持った時点で、フルタイムのBiz Dev(事業開発)のヘッドを採用する

僕はこの助言を受けて、その通りだと思ったのにも関わらず実行しなかった。  資金も十分になく、優秀なBiz Dev(事業開発)VPをしっていたわけでもなかったからだ。だから、自分自身、そしてセールス、プロダクト、カスタマーサクセスのVP達とで、主要なパートナーを共同で管理していた。このチームアプローチ自体が大失敗だったわけではない。すべてのパートナーが、VP、またはCレベルのサポートを受けることができていた。

でもそれは同時に「パートナーを戦略的に取り扱える者が誰もいない」ということでもあった。 パートナーの反応は総じて良好だったが、特に競争の激しいマーケットにおいて、それでは不十分で、常に変化し続けるパートナーのステークホルダーの状況をすべて把握できる人が必要だ。  迅速に行動して、パートナーに実際に会いに行く。共有している顧客が、共にハッピーであるよう徹底すべき。リードを運ぶパートナーと戦いながら、マインドシェアを創り出す。 そんな重要なパートナーを2社持ったなら、これはもうフルタイムの仕事になる。 初めは週50時間の仕事に感じられるかもしれない(そうでないかもしれないが)。  でもそれは、この仕事がフルタイムの仕事に値しないということには繋がらないのだ。

3. 迅速に行動する。クライアント、有望見込客、取引パートナーとは会って話す。もっとさらに精力的に。

これは、僕がごまかしてきたこと。  迅速に行動したつもりだったけれど、その頻度が不十分だった。  僕は、多くの業務を自分自身で抱えこんでいることを理由に(Point 1を参照)、クライアントを訪問して、彼らと会って話をするということから遠ざかっていた。でも、この点において、僕は自分自身をもっと追い込んで、行動させるべきだった。

あとで分かったのは、自分が実際に訪問した多くのクライアントは、11〜12年以上経ってもクライアントでい続けてくれている。あくまでも自分が携わっていた中での話だけど、訪問して会って話をしてきた顧客を失ったことがない。でも、トップクライアントをCEOが直接訪問しなければ、強い関係づくりをすることはできない。最低でも四半期に2回は、足を運ぶことだ。

これは、(ハードコストの面で)このフェーズで会社の規模を拡大するためにできる最も安価な施策のひとつ。もしあなたに十分な資金がない場合でも、トップクライアント、有望見込み客、取引パートナーを訪問して話をするくらいの余裕はあるはず。

4. ARR 2円ごとに1円をバランスシート上で確保すること。  それ未満であれば過少投資していると考える。

僕たちは、ARR 約4億円でキャッシュフローをプラスにすることが出来た。  これを実現できたのは、僕たちがローコスト・リードを生み出すセカンドオーダー・レベニューに注力したことにあって、その結果、毎月110%以上のMRRを現金で取り入れることができたからだ。 皆にも実行してみてほしい。最初の段階で資金繰りが上手くいかなかくても、このポイントのあたりでキャッシュフローをプラスにし始められるはずだ。

これは素晴らしいことであり、ベンチャーキャピタル及び他の利益から生み出された自由だった。だがこれには隠れた税金があり、僕はそのことを表面的にしか理解していなかった。僕たちは、ARR 4億円、バランスシート上で約1.5億円で、キャッシュフローをプラスにした。そして負債を少し(1.25億円ほど)追加することで、バランスシート上の数字を2億円までにしたが、会社が成長するにつれて、これでは不十分となった。  ARR 8億円で、銀行にキャッシュが2億円ある場合、5000万円~7500万円超、最高1億円の投資を行うというのはかなり神経質になる。1億円の投資が心配な状態で、セールス担当を20人追加採用したり(ARR 10億円を射程に入れると必要になる)、ヨーロッパにオフィスを新設したり、大きなキャンペーンとイベントを実施するためにコストをかけるのは難しい。これは微妙だが、SaaSでは、ARR 50%未満が銀行にある場合、投資が不足していると言える。

あなたがイニシャル・スケールに近づいたら、少なくともある程度の戦略的債務を引き受けることを検討する価値がある。ガソリンタンクがほぼ空であることを知らせるライトを点灯させたくないと思うこともあるだろう。それこそが一歩を踏み出したくなる時なんだ。

5. CTO主導からVPE主導の開発チームにする。 これ無くして本来のエンタープライズにはなれない。

これは我々の多くが理解しているトランジションだが、順序が若干間違っている。  多くの場合、エンジニアリングのVP(VPE)を採用して、CTOからの引き継ぎを行う。というのは、CTOが燃え尽きてしまったり、8〜9名を超える開発チームの立ち上げにトラブルを抱えたり、技術的な負債やバグなどの問題を解消することに無関心になるところを見ているから。こうした事態の組合わせは、経験値の高いVPEを採用するタイミングであることを示す合図としては十分だ。

だが、SaaSにおいてもまた、もっと微妙なフェーズトランジションがある。大企業のニーズを本当の意味でサポートしていくためには、ベテランのVPEが必要になるだろう。大手やパワーを持つ会社または人間と話せる人間。それは、セキュリティ、データ、プロテクション、コードレビュー、暗号化、キーストア、リリース管理などについて、企業がどのように考えるかを真に理解していて、実際にその経験がある人間だ。大企業のクライアントからの信頼を得るには、そういったVPEが必要だ。彼らは、大企業のニーズに素早く応えることができる体制へと会社を変化させていくだろう。

6. 早い段階でアウトバウンドチームを追加する。それは、いつも必ずうまく行く。

これは今でこそ広く理解されていることだが、僕にとってはかなり斬新な話だった。僕は、高速で対応するアウトバウンドチームを管理したことも、立ち上げたこともなかった。そして、ARR 1億円から10億円の間、僕たちの会社には、たくさんの(多岐にわたりながらも非常に多くの)インバウンドリードがあったので、かなり後になるまで、伝統的なアウトバウンドチームを立ち上げることはしなかった。でも、今言えるのは、もっと早くに立ち上げるべきだったということ。重要なのは、それはいつでも必ず功を奏するということだ。

今日のSaaSの世界の教訓は、もし大量のリードを持っていたとしても、アウトバウンドチームは早めに立ち上げるべき。このチームは、あなたの会社のスイートスポットの中でも最も大きなアカウントを狙うことが出来る。そのこと自体に価値がある。会社の歴史の中の早い段階で、そうしたロゴやブランド、名前を得られることは必ず何かに繋がる。このような「付加的」なアウトバウンドチームは、インバウンドエンジンの中核が稼働している限り、コストさえカバーできれば良いと思う。最初の1年で1円の売上を立てるために1円を使ったとしても、構わないと言っても過言ではないだろう。

7. カスタマーカンファレンスを早めに開催する。

SaaStrアニュアルの規模を考えると、これは皮肉に満ちているように思えるかもしれないが、僕は、カスタマーカンファレンスの趣旨を理解するのが遅かった。僕が目の当たりにしたのは、Dreamforceのパワーだった。でも、セールスフォースはとても複雑なプロダクトだ。

僕たちのプロダクトがどれだけ簡単に使えるのかを説明する内容で、まる1日分のコンテンツを埋めるなんて、そんな方法は僕には分からなかったし、ましてや十分なクライアントを集めることができるかどうかも分からなかった(1000人でも分からない)。

その結果、ARR 12億円 に達成してやっと初めてのカスタマーカンファレンスを行うことになった。そしてこれは間違っていた。絶対にクライアントが集まることができる場所を作るべきだ。例えそれが10〜20社しか集まらない場合でも実施すべきだ。

8. セールスチームを早期に特化型にする。クローザーにはクロージングを、オープナーにはオープニングを担当させ、フィールド/ミッドマーケット/ SMB区分を早期に行う。

これは、今では多くの人が理解しているものだが、僕はこれを学ぶのに少し時間がかかった。初期段階ならば、「フルスタック」のセールス・プロフェッショナルがいることに問題はない。でもそれは、その段階までだ。一般的に、セールス・プロフェッショナルは一つのことが得意であり、アウトバウンドが得意な人もいれば、アカウント管理が得意な人もいる。インバウンド、大規模ディール、小規模ディール、中規模ディール、複雑なディール、2コールクローズディール、ハイベロシティ対ローベロシティ・・・このうちのいくつかの分野に優れている人はいないし、ましてや全分野において優れている人もいない。もし、得意でない分野のセールスをやらせた場合、そのセールス担当の多くは失敗するだろう。

セールス担当が、イエローページを開いて1日のスケジュールの50%を使ったとする。そして25%はランダムなリードが舞い込んでくることを期待する。そして残りの25%は付随した仕事にあてる。そんな日々はもう終わりだ。セールス担当が3人の時点でも、すべての担当者は自分が得意なことをやらせるべきで、特化型になるべきだ。例えば、SME・中規模サイズのマーケットのクローザーは、1日のアポイントメント数を1〜2件ではなく、4件にすべき。それには、通常は誰か他の人がアポの設定をする必要がある。でも、もし2件ではなく4件のアポをこなすことができれば、それはクローザーの生産性を2倍にすることができるということだ。そしてその結果、セールス担当からさらに高い生産性を期待する事ができるようになり、クロージング率、リード毎の収益もより高くなるだろう。これをやらない手はない。

9. カスタマーマーケティングをさらに強化する。 クライアントとの契約が締結されても、マーケティングは終わらない。

クライアントを1件獲得するのにいくらかかっているのかは把握しているだろう。では、売り上げた後、そのクライアントが継続してプロダクトやサービスを使い続けてくれるよう、そしてアップセルを狙うマーケティングのために、カスタマーライフタイムの何%を費やしている?いくら費やしているのか、または費やすべきなのか、その答えを知っているのは、恐らくこれを読んでいるほんの一握りのSaaS経営者だろう。

この答えは絶対に知っておくべきであり、計画も持つべきだ。そして、それに対する人材も採用すべきだ。リカーリングレベニューモデルの場合、プレ・セールカスタマーマーケティングと同じくらいポスト・セールカスタマーマーケティングが重要になる。リニューアルや競合からの獲得、アップセルをゴールとする別のチームが必要になる。そして、それらの収益源の一部をマーケティングに対して使うべきだ。最低でも5%、長期的に考えるなら10%でも良いと思う。

カスタマーサクセスのプロは、優秀で重要だが、彼らはマーケターではない。カスタマーサクセスチームにカスタマーマーケティングをさせても良いのは初期段階までだ。ARR 5億円を達成したら、そこは分けておかないと、上手く回らなくなってくるはずだ。

10. ARR 10億円達成に近づいたら、ブランドへの投資を積極的に行うべき。最初は馬鹿げた話に思えるかもしれない。でも、これが70%以上のアーリーアダプターでない企業がベンダーを選ぶ判断基準になる

最後のポイントは、僕がやった微妙な間違い。ARR10億円を達成させた僕は、セカンドオーダーレベニュー、リファーラルそして、幸せな顧客が持つパワーを良く理解している。しかし、僕はそれが全て真の「ブランド」であるとは思ってなかった。初期段階において、ブランドにあまりこだわる必要はない。なぜなら、そもそもブランドなど持っていないからだ。だからニッチな分野においてミニブランドを得るようになって、それがリードの生成につながる。

そして、ARRが10億円に近づいた時、このミニブランドがブランドに変わる。僕が考えるこの差は、あなたの会社が、アーリーアダプターではない企業にとっての最初の選択肢になっているということだ。アーリーアダプターはベンダーリスクを取りながらも革新さを求めて、挑戦することを好む。しかし、事業領域が成熟して、このアーリーアダプターのフェーズを離れたら、その先にいる多くのクライアントは、どのベンダーを採用すべきなのかを教えてもらいたがる。だからこそ、トップブランドになるということは非常にパワフルなことなのだ。もしかすると、前職で採用した実績があって、次もまた採用してくれるかもしれない。Techcrunchの記事やブログポストで見かけることがきっかけになるかもしれない。とにかくARR 10億円に達した時、その分野であなたの会社は多くの人に知られている存在になっているだろう。

だから、ARR8〜10億円以上になったら自分のブランドに投資する。一番有名な展示会に行ったら、リードを獲得するのではなく、既存クライアントに会うべきだ。どこにでも行って、ありとあらゆる場所に参加する。コンテンツマーケティングを実行するのは、自分のプロダクトやサービスを売るためじゃない。既存のクライアントを助けるために実行するんだ。ステージにあがれ。コーポレートマーケティングのVP、そしてCMOを採用する。

そしてブランドを守り抜く。一度でも無くしてしまえば、それを取り戻すのは至難の業だ。でも、もし投資し続ければ、それはその先何十年も続くブランドとなるだろう。

(edited by kobajenne