Y Combinator Demo Day から感じたSaaSトレンド

今年も3月20日から3日間「第24回 Y Combinator Demo Day」が開催された。僕にとってはこれが10回目の参加。今回も電動飛行機や印刷ができるOLEDなど、100を超えるスタートアップによる興味深いプレゼンテーションの数々が繰り広げられた。
そこで今日は、Demo Dayから感じたSaaSのトレンドについて書いてみようと思う。

音声認識を使ったSaaS
音声認識を応用した新たなソリューションを提供しているSaaSスタートアップが2社あった。Clover Intelligenceは、営業電話の内容を分析し営業スクリプトの最適化やコーチングを行うサービス。Tetraは、会議の音声を記録し議事録に落とし込むサービス。

様々なセンサーの精度が上がると同時に、音声やジェスチャー等で画面の無いインターフェースのSaaSソリューションは今後もどんどん増えるだろう。

SDRのリプレイス
問い合わせや営業電話で獲得したリード(案件)を営業マンに渡すSDR業務の委託を受けたり、自動化させるサービスが多数あった。Scribeは、企業の問い合わせフォームから問い合わせをしてきた顧客を分析し、その顧客が有料ユーザーになる確率を自動でランク付けするサービス。RileyはSDR業務をクラウドワーカーに委託できるサービスで、Upcallは営業電話を委託できるサービス。

こういったSaaS企業向けのSaaSはサブスクリプションマネージメントのZuoraや、カスタマーサクセスのGainsightを筆頭に次々と現れている。すでにこの分野はレッドオーシャン化しつつある。

SaaS / マーケットプレイスのハイブリッド
導入ポイントはSaaSと同じだが、マーケットプレイスの要素を持つスタートアップも多かった。Hivyは総務の仕事を一元管理できるSaaSで、マーケットプレイスから名刺の発注やフードデリバリー、石鹸の購入などができる。Algorizはトレーダーが簡単にアルゴリズムを作りテストすることができるツールで、アルゴリズムを購入できるマーケットプレイスも提供している。

ハイブリッドモデルの優れた点は、マーケットプレイスのネットワーク効果によって参入障壁を強化させることができること、そして手数料による収益など、SaaS以外のところで利益を上げることができること。こういったハイブリッドモデルのSaaSビジネスは今後も注目したい。

MLが活用したSaaS
マシンラーニング(ML)を活用したSaaSもいくつか発表された。Quikiは、カスタマーサポートのチャットやメールログ内容を解析し、自動でFAQ(よくある質問)ページを自動生成する。Bicycle AIは、カスタマーサポートをA.I化するソリューション。

MLを活用したSaaSはここ数年で特に増えている分野だ。MLの活用は今後どの業界でも必須になり、さらに加速していくだろう。

現場が使えるSaaS
工事や製造の現場に携わる人間が、主にスマホを使って活用できるSaaSも多数あった。従業員が、ビルや工場の管理・メンテナンスをスマホやPCから行えるUpkeep。そして工事現場にいる従業員がスマホを使ってプロジェクトやタスクの管理ができるサービスFIBO

今後はスマホだけでなく、IoTやARを活用したソリューションによって現場の人間の業務効率化を実現させるサービスが増加していくだろう。

以上が「第24回 Y Combinator Demo Day」のSaaSトレンド。特に「SaaS / マーケットプレイスのハイブリッド」「MLを活用したSaaS」と「現場でも使えるSaaS」は、日本でも注目したい分野である。

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MRR 革命!月額課金に転換したAdobeやMicrosoft、そして日本でも。

ソフトウェアのライセンス販売で展開してきた Adobe が月額課金サービスを発表し、Microsoft もOfficeの月額課金プラン〈Office 365〉を発表。さらにAmazonの〈Amazon Prime〉やAppleの〈Apple Music〉など、特にここ5〜6年前から、一度きり課金モデルから月額課金制へと課金モデルを次々と転換する企業が増えている。

なぜ MRRへの転換が起きているのか?
この転換が起きている理由はいくつかある。

テクノロジー:従来ソフトウェアを提供するためには、物理的にパッケージを販売し、インストールする必要があったが、今ではクラウド上でサービスを提供したり、ソフトウェアを配布することができる。これによって導入や販売コスト、そしてメンテナンスコストを格段に下げることができるようになった。

顧客からの需要:パッケージ販売は一度きりの関係性のため、販売後、サービスを提供する側から継続的に顧客サポートを行うインセンティブが低い。これが月額課金制にすることにより「いかに継続的に長く使ってもらうか」が企業にとって重要なポイントとなるため、顧客の満足度を導入後も維持させないといけないというインセンティブが強く働く。
また、”導入コストゼロ” の月額課金制にすることによって、顧客は自分が利用した分だけサービス利用料を支払うという、よりフレキシブルな料金体系を提供することが可能になる。

ウォールストリートが好む:月額課金モデルはソフトウェア販売と違ってボラティリティーが小さく、売上予測がしやすい。これにより、業績予想も外しにくく、企業の評価もしやすくなる。

Adobeの株価が4倍近くに
Adobeが2012年4月に月額課金制の〈Creative Cloud〉を発表した日から、株価は4倍近くに上がり、月額課金のビジネスが年間売上4000億円以上までに伸びている。2012年、月額課金による売上は全体売上の27%しかなかったところが、今では8割以上を占めるまでに成長した。


Adobe社の株価グラフ


月額課金ビジネスのARR(年間契約金)のグラフ。今では年間4000億円以上のビジネスに。

Adobe全体売上の8割以上が月額課金制

日本でも創業20年の企業が
日本でも同じような動きを見ることができる。さまざまな企業向けツールをパッケージやライセンスで販売していた Cybozu も月額課金モデル展開を始めており、クラウドサービスによる売上の割合が5割を超えている。

参考までに、Cybozu が展開しているプロダクトの一つ〈ガルーン〉のライセンス版とクラウド版の料金体系の違いは以下である。

ライセンス版:初期費用に加えてアップグレード時に支払うライセンス費用や、継続ライセンス費用などがある。

クラウド版:初期費用なし、アップグレード費用なし、ユーザー数に応じて課金されていくわかりやすい料金体系。

既存プレイヤーがMRRモデルに転換し、同時に次々とTo BでもTo Cでも新たなサブスクリプションビジネスが生まれている。近い将来、ほぼ全てのサービスが月額課金制になるだろう。

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