SaaSは全ての業界を食うのか?業界特化型SaaSを起業するときに考えるべきこと


Photo by: Kevin Gill

SaaSは全ての業界を食うのか?業界特化型SaaSを起業するときに考えるべきこと

ここ数年、業界特化型のSaaS企業(Vertical SaaS)に注目が集まっている。
例えばアメリカでは、製薬業界に特化したVeeva(時価総額 約1.2兆円)、教育業界に特化した2U (時価総額 約5600億円)、建築業界特化したのProcure Technologies(時価総額 約1000億円)、ウェルネス業界に特化したMindbody(時価総額 約2000億円)などがあり、2016年アメリカのVertical SaaS企業の時価総額は、合計16兆円にまで拡大している(参照)。

日本でも建築*リーガル保険*食品工場*歯科医院*薬局ホテル国際物流等などの業界で、Vertical SaaS企業が次々と生まれている(* BEENEXT支援先)。

また、SMSが運営する介護業界に特化したSaaS「カイポケ」も年間売上33億円のビジネスに成長している。

では、Vertical SaaSのビジネス機会は、全ての業界に対して存在するのか?
Vertical SaaS企業を立ち上げるときに考えるべきポイントについてまとめてみた。

対象顧客が支払うSaaS利用料の限界はいくらなのか?
Vertical SaaS企業を立ち上げようとした時に考えるべき重要なポイントは、対象となる業界の状況とその業界内の顧客が支払うSaaS利用料の目安だ。例えば、その業界全体が潤っているならば、年間1000万円を支払う顧客が多く存在するかもしれない。しかし、利益率が低い業界ならば年間10万円程度しか支払わない顧客の方が多いかもしれない。

全体的に儲かっている業界なのであれば、市場規模についてはあまり心配する必要はない。
なぜなら、利用料を年間1000万円支払える顧客が多く存在する場合、ARR50億円を達成するために必要な有料顧客は500社程度だからだ。
その一方で、SaaSに対して少額の資金しか投入できない顧客が集まる業界の場合、自分の会社が現実的に到達できる規模がどの程度になるのかを考える必要がある。一顧客あたりが支払う利用料が年間10万円ならば、ARR50億円を達成するには5万社の顧客が必要になる。対象顧客は何社存在するのか?マーケットシェア20%程度でも十分な規模に到達できるのか?などを問うべきだ。

営業サイクルはどれぐらい長いのか?
平均単価が年間1000万円以上であれば問題になることは少ないが、年間500万円以下の顧客をクロージングするのに半年以上かかるのであれば、もう一度エクセルと向き合う必要があるかもしれない。

極端な例として、年間30万円の顧客をクロージングするのに12ヶ月かかり、営業マンあたりのクロージング数が年間10社しかないとすると、その営業マンの給料でさえも一年で回収できないということになる。営業マンの費用以外にもカスタマーサクセス費用、オペレーション費用、営業サポート費用、マーケティング費用などもあることも忘れずに。

そんな中、「一人の営業マンは自分の年収の4倍のARRを獲得する」というのが一つの良い指標になるだろう。つまり、年収500万円の営業マンは、年間2000万円のARRを獲得する必要がある。ちなみに北米では、6〜8倍程度のARRが望ましいと言われている。

〈参考〉以下は、Hubspotがまとめた、の年間契約金額に応じた平均営業サイクルの表:

セールスフォースでは解決できない独特な課題が存在するか?
特定の業界に特化したSaaSを作ろうとしたとき、セールスフォースなど既存のHorizontal SaaSで解決できる課題はどのくらいあるのか?もし、既存の大手SaaSで課題のほとんどを解決できるのであれば、差別化要素が足りていないのかもしれない。

でも、その業界独特なプロセスや課題があり、既存のSaaSよりも10倍良い体験を生み出せるのであれば、大手SaaS企業に勝てる可能性は十分ある。

日本ではまだまだ存在するVertical SaaSの機会
下図は、北米大手VC Bessemer Venture Partnersが作ったVertical SaaSのマップ。
日本では特に物流、医療、教育などでチャンスがまだ残っていると僕は思う。

SaaSは、まだまだ色んな業界を”食える”と思っている。ただし前述のとおり、狙う業界によっては展開の難度や、市場サイズが異なり、ビジネスモデルを成り立たせる難易度が想像以上に高い場合があるので、Vertical SaaSに挑戦する起業家は上記のポイントを頭に入れて自分たちの事業の可能性を考えてみてほしい。

(edited by kobajenne

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70億円調達したB2B SaaSスタートアップのピッチ資料を解説


Photo by: Phil

カスタマーサポートや求人、その他お問い合わせのメールを一度に複数人で対応できる「コラボレーション・インボックス」を展開するFront社が、今年1月、シリーズBでSequoia Capital等から約70億円を調達した。この資金調達時に使用された資料を同社のCEOが一般公開していたので、僕の視点からこの資料の”イケてる”ポイントを解説したい。

様々な業界や業種が使っている

スライド左下の表から、テック業界以外にも旅行や教育、不動産など様々な業界の顧客を獲得できていることが分かる。また、右下の表では、カスタマーサポートからHR、マーケティングやプロダクトチームなど、一部の部署に限らず会社内で幅広く使われているのが分かる。

スタートアップを評価する時、多くのVCが注目するポイントの1つに「TAM (この会社が狙える最大の市場規模)」があるだろう。僕の場合も『この企業がターゲットにしている市場は、ARR 50億円以上の企業を作り出す可能性を持っているのか』という点はいつも確認するようにしている。

一つの業種にしか対応していないB2B SaaSを展開している場合、それでも十分大きなACVが取れるのか、または様々な業界に対応できるようサービスに変更を加える必要があるのかを検討する。その結果一つの業界に絞った場合も、その業界の中でさらに様々な業種を狙えるのか、大きなACVを取れるのかが重要な基準になる。

Front社は、業界そして業種をまたいで顧客を獲得できていることが、特に優れているポイントの一つだろう。

ARRが順調に伸びてる

具体的な数字は非公開になっているが、このグラフからもARRが順調に伸びていることが見て取れる。SaaS企業は常にT2D3の成長率を求められているわけだが、同社は、恐らくその成長率を満たしているのだろう。前ラウンド(シリーズA)の調達資料には、2017年度の計画が10億円以上のARRになっていたので、この数字を達成したものと考えられる。

ネガティブチャーン!

ネガティブチャーンとは、Net Churnがマイナスになっていること。つまり退会による売上の減少よりもアップセルやアップグレード、エキスパンションによる売上の増加ペースの方が速いということを示している(方程式はこちら)。

上のスライドでは、同社がネガティブチャーンを達成できていること、そして、Gross Churnも改善傾向にあることを示している。

営業チームもスケールできている

もう一つ、VCがB2B SaaSのシリーズBラウンドで出資を検討する際に着目するポイントとして、「営業チームをスケールさせられているか」がある。ただ単に営業メンバーを増やすだけではなく、営業メンバーのオンボーディングや、トレーニングがきちんとできているのかが重要だ。スライド左側は、営業メンバーの数(グレー)と個人目標を達成できてるメンバーの数(ブルー)をグラフにしたもの。一般的に、営業メンバーの半分以上が目標を達成できている状態が健全だと言われており、Front社はその比率を超えていることが分かる。

スライド右側は、営業チームのキャパシティ(グレー)と実績(ブルー)を表している。実績がキャパシティを常に上回っており、モチベーションの高いチームを維持できていることが分かる。

ASPの上昇と大型案件の増加

ASP(平均販売単価)が上がり、大型案件(定義は不明)が増加していることを表しているスライド。ここで注目したいのは、同社のサービスが中小企業だけでなく、大規模な顧客にも販売できているということ。営業チームのレベルが上がっている証拠だ。

マーケティング指標が健全

スライドの上半分はマーケティング費用とリード数を四半期毎に比較したものだが、このスライドでは、左下の表に注目してほしい。
まず、LTV/CACの数値。北米のSaaS業界では、LTV/CACが3以上であることが望ましいと言われている中、同社の直近四半期では、4.4を達成している。

次に、売上に対して使われているマーケティング費用の比率。アメリカ上場SaaS企業の売上に対するマーケティング費用の比率は、20%〜50%程であるケースが多い。例えば、Salesforceは50%以上、Marketoは60%以上を占めているなか、Front社は20%を下回っている。

Net Retention 150%

以前Net Revenue Retentionの重要性について書いたことがあるが、Front社は、1年後のNet Revenue Retentionが150%、さらに時間軸と共にユーザーの利用率(スライド右下)も増加傾向にある。これは、アップセルやエキスパンションが確実にできていることを表している。

Front社は、様々な観点で非常に魅力的なスタートアップだ。同社の シリーズAシリーズB 両ピッチ資料も、参考になるポイントが多く含まれているので、是非一度見てみて欲しい。

(edited by kobajenne

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この数値がSaaS経営の難易度を決める「Net Revenue Retention」


Photo by: zapmole756

SaaS企業は、T2D3の成長率を求められるが、実はこの成長を達成する難易度は企業ごとに異なる。この難易度を示す重要な指標の1つが「Net Revenue Retention」だ。

Net Revenue Retentionとは
売上継続率のこと。今月獲得した売上が来年の今頃にはどの位になるのか、を示す指標。
方程式は以下:

A = [1年前に当月獲得した有料顧客のMRR]

B = [その同じ顧客の今月のMRR]

Net Revenue Revenue Retention = B / A

参照:Essential SaaS Metrics: Revenue Retention Fundamentals

例えば、昨年3月に獲得した新規有料顧客のMRRが100万円で、その同じ顧客からの今年3月のMRRが90万円の場合、Net Revenue Retentionは90%になる。

アメリカの上場SaaS企業は、Net Revenue Retentionが100%を超えているケースが多数。
下のグラフは、Net Revenue Retentionを公表しているアメリカの上場SaaS企業の一覧。Twilioが170%、Boxが130%、Zendeskは123%で、これら企業のNet Revenue Retentionの中央値は、117%となる。

(クリックすると拡大します)

Source: Net Dollar Retention Benchmarks

100%を超えているということは、退会による売上の減少よりもアップセルやアップグレード、エクスパンションによる売上の増加ペースの方が速いということを示している。

例えば Veeva Systems の場合。Net Revenue Retentionが187%なので、今月新規顧客から獲得した月次売上が1億円だとすると、来年の今頃その同じ顧客から得られる月次売上は1.87億円になるということだ。

Net Revenue Retentionは、低ければ低いほど経営のハードルが上がり、高ければ高いほど経営が楽になる。
今月の新規有料顧客からのMRRが1000万円だったとしよう。

Net Revenue Retentionが150%の場合、新規の顧客を全く獲得しなくても来年の同じ頃に獲得できる売上は1500万円になる。しかし、Net Revenue Retentionが50%の場合は来年の同じ頃の売上は500万円になってしまう。

つまり、Revenue Retentionが低ければ低いほど、売上の成長計画を達成するために、新規の売上を多く獲得する必要が出てきてしまう。

プロダクトマーケットフィットとカスタマーサクセスが鍵
売上継続率を上げるためには、プロダクトマーケットフィットを達成すること、アップセルやアップグレードが可能な料金体系にすること、そしてカスタマーサクセスを実践することが重要だ。

これらのポイントについては、以下の記事も参考にして読んでみてほしい。

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SaaSの価格設定でよくある「間違い」

サンフランシコで開催された『SaaStr Annual 2018』で、Open ViewのBlake Bartlett氏とKyle Poyar氏が行ったプレゼンテーションの内容をまとめました。
※ 一部補足や説明も追加しています。(スライドはこちら

SaaSの価格設定は、誰しもがぶつかる悩みであり、最初から上手にできるスタートアップなどほぼいない。しかし、SaaSの価格設定が上手くできているかどうかは会社の成長スピードに関わる重要なポイントであり、決して無視することはできない。実際512社のSaaS企業を調査した結果、〈顧客獲得の最適化〉をするのと〈価格設定の最適化〉をするのでは、企業の成長インパクトに4倍もの差が出ることが分かっている。(下グラフ参照)

そこで、SaaSの価格設定でよく見受けられる「間違い」トップ5を紹介する。

価格が安すぎる

よくある間違いの1つは、価格を安く設定し過ぎること。導入のハードルを下げるために最初は手頃な価格を設定しがちだが、本来は、「このプロダクトに顧客はいくらまでなら支払うのか」をユーザーヒアリングを通して調査し、その結果を反映させるべき。

また、プロダクトは時間軸と共に常に改善され機能も増えるので、価格に変動が生じるのも当然のこと。Atlassian が2016年に買収した StatusPage の価格設定を時間軸と共に見てみると、2013年と2016年の価格の差は最大30倍にもなり、ARPUも当初より2.4倍になっていた。

価格体系が間違っている

アカウント数なのか、APIコール数なのか、それとも社員数なのか。何を基準に価格を変えるべきなのかを正しく決める必要がある。調査の結果、様々な業種や業界で利用されるHorizontal SaaSはアカウント数ベースでの従量課金を採用し、特定の業界に特化したVertical SaaSは利用ベースで従量課金をしている企業が多いことが分かった。

顧客がプロダクトやサービスから得られてる価値に比例して、課金する金額も上がる価格体系にすること。この時、その「価値」を表すKPIが何なのかを考える必要がある。

例えば、経費精算システム Expensify は、元々ユーザー数ベースで課金をしていた。そのため、顧客企業は毎月経費精算を行う社員の分だけのアカウントを登録し、時々しか経費精算をしない社員のアカウントは登録しないというケースが多く見られた。
そこで、課金ポイントを『該当月に経費精算をした”アクティブユーザー”』に変えた途端、全社導入のハードルが下がり、全ての社員が気軽にサービスを利用できるようになった。

もう1つの例として、不動産ブローカーや物件オーナー向けの物件管理SaaS VTS は、物件数ベースで課金をしていたため、物件規模に関わらず課金額が同じだった。つまり、小さい物件を管理してる人にとっては割高なサービスで、大きい物件を管理している人にとっては、非常に安価なサービスになってしまっていた。そこで、従量課金をするポイントを、物件数ではなく〈管理している平米数〉に変えることによって、適正な価格で課金できるようになった。

買いずらい(決めずらく)している

「自分の会社にとって最適なプランはどれなのか?」
「導入したら毎月いくらかかるのか?」
特に、営業手法が『セルフサーブ型』や『インサイドセールズ』中心のSaaSは、これらの答えをすぐに見つけられる料金ページを作成すべき。

参考にできる例として、Slackの料金ページでは、それぞれの料金パッケージがどういったチームや企業に向いているのか、そしてどういったメリットがあるのかを明確にしている。さらに『よくある質問』を同ページ内に表示させ、なるべくその場で疑問を解消できる仕組み作りをしている。

アップセルができない価格体系になっている

成長率が高いSaaS企業に共通する特徴の1つは『Negative Churn』であること。Negative Churnとは、退会による売上の減少額よりも、アップセルやアップグレードによる既存顧客の売上増額の方が上回っていること。以下のグラフからも分かる通り、年度成長率100%以上を達成しているSaaS企業は、売上継続率が平均して109%になっている。つまり、今月獲得できた売上100万円は、新規顧客を獲得しなくても1年後には109万円になっているということだ。

例えば、インフラのパフォーマンス監視サービスを展開する NewRelic は、利用しているインスタンスのサイズに応じて従量課金がされるようになっている。つまり、既存顧客はNewRelicのインスタンスを増やせば増やすほど、課金額が上がっていく〈アップセル可能な料金体系〉になっている。その結果、現在売上継続率は123%にもなるという。

別の例として、400億円以上で Atlassian に買収されたタスク管理サービス Trello も、より便利な追加機能の利用やコラボレーションをする相手の数を増やすために、別プランの購入が必要になる。

価格設定がダイナミックに変化していない

SaaS企業の価格設定は、会社のフェーズに応じても変化するべきだ。初期の段階では1つのプロダクトに対し単一の価格を設定したとしても、その後様々な機能が追加されたり、別のプロダクトが展開されたり、新しい業種がターゲット顧客層となるなど、会社がスケールすると共に価格設定もダイナミックに変化するべき。

SaaSの王者である Salesforce も1999年から新たな価格体系を展開しており、初期の価格から6倍値上がりしているプランもある。

価格は最初に設定したらそれで終わるのではなく、変動するものだ。
新しい機能を展開した時、ニーズの異なる新しい顧客属性を取り入れた時、そして、会社の信頼性やブランドが強化された時など、様々な理由やきっかけで見直す必要がある。

価格設定は会社の成長率や利益率に大きなインパクトを与える。
会社の内部で〈価格の最適化〉について常に考え、実行する担当責任者を置くと良いだろう。

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SaaSの40%ルール。SaaS企業はどこまで赤字を出して良いのか?


Photo by: Arek

たくさんのB2B SaaS企業の決算公告や決算資料を見ていると、多くの企業が赤字を出していることが分かる。これは、シェア拡大や成長のための投資なのか?それとも、厳しい状況下で苦労しているのか?
今回は、B2B SaaS企業の赤字の許容範囲はどこまでなのか、その指標について書くことにした。

SaaSの40%ルール
北米SaaS VCの間では「40%ルール」というワードがよく登場する。
このルールに従って許容範囲の指標を求めようとすると:

40% = MRR年度成長率 + 営業利益率

*MRR = 月間定額収益

という方程式が成り立ち、この方程式に数字を当てはめてみると:

・MRR年度成長率が100%・・・営業利益率が(-)60%までは許容範囲内
・MRR年度成長率が40% ・・・営業利益率が0%以上である必要あり
・MRR年度成長率が20% ・・・営業利益率が20%以上である必要あり

でも、このルールはアーリーステージのスタートアップには適応できない。適応すべきタイミングは人によって意見が異なるのだが、年度売上50億円程度から適応すべきだと言われることが多い(参考記事 12)。

参考までに、米VC RedpointのTomaz Tunguzが作った以下のグラフを見てみよう。これは、北米のSaaS上場企業の売上成長率と営業利益率を足した数値(以下 GP Ratio)の中央値をグラフ化したものだ。Y軸がGP Ratio、X軸は会社設立から経過した年数。グレーの太線はGP Ratio 40%のライン。

上グラフを見ると、他社との比較やビジネスの状況を把握するために「40%ルール」を使うべきタイミングは、会社設立後6年程度経ったところからであると言える。

ただこれは、あくまでも北米のSaaSスタートアップの数字を基に算出した方程式。北米はSaaS企業同士の競争が日本より激しい。マーケティングコストも比較的高く、また、特にシリコンバレーでは家賃や給料も非常に高いので全体コストが膨れ上がる。そのためこの結果をそのまま日本に当てはめることは難しいだろう。

実際、日本のサンプルサイズはまだ少ないのだが、MRRが1億円を超えてるB2B SaaS企業の年間売上成長率と営業利益率を足すと、60%を超えているケースが多数存在する。日本国内のSaaS企業がさらに増加することで、近い将来、適正な指標がハッキリしてくるだろう。

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SaaSスタートアップが達成すべき4つの “フィット”


Liza

リーンスタートアップによって〈プロダクト・マーケット・フィット(PMF)〉という概念がスタートアップ業界の中に浸透した。では、B2B SaaSスタートアップにとっての PMFとは何か?それは、1つではなく複数の指標があると思う。そしてPMFは、数週間や数ヶ月で達成するものと思われがちだが、B2B SaaSスタートアップの場合は、最低でも2年程度はかかると考えるべきだ。

僕が考える、PMFを達成するために必要な「4つのフィット」はこれだ。

プロダクト・フィット
まず達成すべきは、ターゲットとなる顧客が持つ『課題』に適したプロダクト/ソリューションを提供すること。そして、高い顧客満足度を得ること。
ここで使うべき指標は:

  • エンゲージメント:日々利用するサービスであればDAU/MAU、週に1回程度の利用頻度ならば、WAU/MAUをみると良い。この数値は、50%以上を維持することが望ましいが、サービスの特徴に適した評価方法を探る必要がある。
  • 月次チャーン:月額制のプランであれば、月次の顧客退会率は3%以下が望ましい。
  • NPSスコア:ある程度の顧客数(40程度)が必要になるのだが、NPSを測って満足度を測ることもできる(NPSスコアは最低30以上は欲しい)。NPSの他にも、Sean EllisのPMFテストなどもある

ローンチして間もないスタートアップは、顧客インタビューなどを通じて、定量的な指標以外の(満足度に関する)定性的な意見も積極的に取り入れて欲しい。

プライシング・フィット
自分たちが狙いたい(狙える)ACV(年間発注額)を理解する必要がある。これはターゲット顧客が解決したい課題に対して払える金額、プロダクト/ソリューションの完成度、そして競合優位性(又は差別化)で決まってくる。最初から狙ったACVを達成できるスタートアップは少ない。ほとんどの場合は低いACVから徐々に機能を拡張してACVを上げていくケースが多い。

ストラテジー・フィット
顧客獲得の戦略は、「ACV」と「顧客の属性」によってだいたい決まる。対面営業でないと説得できない顧客もいれば、非対面でも導入まで持ち込めるケースもある。高いACVであれば、アウトバウンドの営業部隊を抱えたり、長いセールスサイクルでも事業を成立させることはできるが、低いACV (50万円以下)の場合は、セルフサーブ型やインサイドセールスを中心とした戦略でないと成り立たないことが多い。
ここできめ細かくみる必要があるのが、「LTV (一顧客が、取引期間を通じて企業にもたらす利益 )」と「CAC(一顧客を獲得するためにかかった営業及びマーケティングの費用)」の2つだ。時価総額1000億円超える北米のB2B SaaS企業の場合LTVをCACで割った数字は8以上というケースが多いのだが、少なくとも3以上であるべきだ。

マーケット・フィット
ターゲット顧客と狙えるACV、そして獲得戦略が理解できたら、次に直接狙える市場規模を理解する必要がある。これはターゲット顧客の数とACVを掛け合わせてボトムアップで計算できる。そして、この数値が自分たちにとって十分なのかどうかを考える必要がある。「十分」の定義は、人それぞれでマーケットシェアをどれぐらい取れるかの自信と事業規模をどれくらいにしたいかの目標が影響してくる。僕のB2B SaaSスタートアップへの投資基準は、最低50億円のARR(年間定額収益)を見込むことができる市場規模。スタートアップが現実的に取れると思うマーケットシェアは、競争が激しい分野になる可能性が高い場合は20%、ほぼ独占的なポジションが取れそうな場合は50%程度になると考えている。

PMFの達成は、多くの指標の組み合わせで確認する必要があり、想像よりも長い道のりを歩む覚悟をしなくてはならない。ほとんどのスタートアップは2年以上をかけてARRが2億円程度に到達したところで、やっと〈達成の可能性〉が見えてくる。
でも、ここで覚えておかなくてはならないのは、「PMFの達成は、成功を保証するものではない」ということ。PMFを達成した上で、最高のチームをつくり、最高のエグゼキューションがなければ『成功』はできない。

関連記事:

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Y Combinator Demo Day から感じたSaaSトレンド

今年も3月20日から3日間「第24回 Y Combinator Demo Day」が開催された。僕にとってはこれが10回目の参加。今回も電動飛行機や印刷ができるOLEDなど、100を超えるスタートアップによる興味深いプレゼンテーションの数々が繰り広げられた。
そこで今日は、Demo Dayから感じたSaaSのトレンドについて書いてみようと思う。

音声認識を使ったSaaS
音声認識を応用した新たなソリューションを提供しているSaaSスタートアップが2社あった。Clover Intelligenceは、営業電話の内容を分析し営業スクリプトの最適化やコーチングを行うサービス。Tetraは、会議の音声を記録し議事録に落とし込むサービス。

様々なセンサーの精度が上がると同時に、音声やジェスチャー等で画面の無いインターフェースのSaaSソリューションは今後もどんどん増えるだろう。

SDRのリプレイス
問い合わせや営業電話で獲得したリード(案件)を営業マンに渡すSDR業務の委託を受けたり、自動化させるサービスが多数あった。Scribeは、企業の問い合わせフォームから問い合わせをしてきた顧客を分析し、その顧客が有料ユーザーになる確率を自動でランク付けするサービス。RileyはSDR業務をクラウドワーカーに委託できるサービスで、Upcallは営業電話を委託できるサービス。

こういったSaaS企業向けのSaaSはサブスクリプションマネージメントのZuoraや、カスタマーサクセスのGainsightを筆頭に次々と現れている。すでにこの分野はレッドオーシャン化しつつある。

SaaS / マーケットプレイスのハイブリッド
導入ポイントはSaaSと同じだが、マーケットプレイスの要素を持つスタートアップも多かった。Hivyは総務の仕事を一元管理できるSaaSで、マーケットプレイスから名刺の発注やフードデリバリー、石鹸の購入などができる。Algorizはトレーダーが簡単にアルゴリズムを作りテストすることができるツールで、アルゴリズムを購入できるマーケットプレイスも提供している。

ハイブリッドモデルの優れた点は、マーケットプレイスのネットワーク効果によって参入障壁を強化させることができること、そして手数料による収益など、SaaS以外のところで利益を上げることができること。こういったハイブリッドモデルのSaaSビジネスは今後も注目したい。

MLが活用したSaaS
マシンラーニング(ML)を活用したSaaSもいくつか発表された。Quikiは、カスタマーサポートのチャットやメールログ内容を解析し、自動でFAQ(よくある質問)ページを自動生成する。Bicycle AIは、カスタマーサポートをA.I化するソリューション。

MLを活用したSaaSはここ数年で特に増えている分野だ。MLの活用は今後どの業界でも必須になり、さらに加速していくだろう。

現場が使えるSaaS
工事や製造の現場に携わる人間が、主にスマホを使って活用できるSaaSも多数あった。従業員が、ビルや工場の管理・メンテナンスをスマホやPCから行えるUpkeep。そして工事現場にいる従業員がスマホを使ってプロジェクトやタスクの管理ができるサービスFIBO

今後はスマホだけでなく、IoTやARを活用したソリューションによって現場の人間の業務効率化を実現させるサービスが増加していくだろう。

以上が「第24回 Y Combinator Demo Day」のSaaSトレンド。特に「SaaS / マーケットプレイスのハイブリッド」「MLを活用したSaaS」と「現場でも使えるSaaS」は、日本でも注目したい分野である。

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MRR 革命!月額課金に転換したAdobeやMicrosoft、そして日本でも。

ソフトウェアのライセンス販売で展開してきた Adobe が月額課金サービスを発表し、Microsoft もOfficeの月額課金プラン〈Office 365〉を発表。さらにAmazonの〈Amazon Prime〉やAppleの〈Apple Music〉など、特にここ5〜6年前から、一度きり課金モデルから月額課金制へと課金モデルを次々と転換する企業が増えている。

なぜ MRRへの転換が起きているのか?
この転換が起きている理由はいくつかある。

テクノロジー:従来ソフトウェアを提供するためには、物理的にパッケージを販売し、インストールする必要があったが、今ではクラウド上でサービスを提供したり、ソフトウェアを配布することができる。これによって導入や販売コスト、そしてメンテナンスコストを格段に下げることができるようになった。

顧客からの需要:パッケージ販売は一度きりの関係性のため、販売後、サービスを提供する側から継続的に顧客サポートを行うインセンティブが低い。これが月額課金制にすることにより「いかに継続的に長く使ってもらうか」が企業にとって重要なポイントとなるため、顧客の満足度を導入後も維持させないといけないというインセンティブが強く働く。
また、”導入コストゼロ” の月額課金制にすることによって、顧客は自分が利用した分だけサービス利用料を支払うという、よりフレキシブルな料金体系を提供することが可能になる。

ウォールストリートが好む:月額課金モデルはソフトウェア販売と違ってボラティリティーが小さく、売上予測がしやすい。これにより、業績予想も外しにくく、企業の評価もしやすくなる。

Adobeの株価が4倍近くに
Adobeが2012年4月に月額課金制の〈Creative Cloud〉を発表した日から、株価は4倍近くに上がり、月額課金のビジネスが年間売上4000億円以上までに伸びている。2012年、月額課金による売上は全体売上の27%しかなかったところが、今では8割以上を占めるまでに成長した。


Adobe社の株価グラフ


月額課金ビジネスのARR(年間契約金)のグラフ。今では年間4000億円以上のビジネスに。

Adobe全体売上の8割以上が月額課金制

日本でも創業20年の企業が
日本でも同じような動きを見ることができる。さまざまな企業向けツールをパッケージやライセンスで販売していた Cybozu も月額課金モデル展開を始めており、クラウドサービスによる売上の割合が5割を超えている。

参考までに、Cybozu が展開しているプロダクトの一つ〈ガルーン〉のライセンス版とクラウド版の料金体系の違いは以下である。

ライセンス版:初期費用に加えてアップグレード時に支払うライセンス費用や、継続ライセンス費用などがある。

クラウド版:初期費用なし、アップグレード費用なし、ユーザー数に応じて課金されていくわかりやすい料金体系。

既存プレイヤーがMRRモデルに転換し、同時に次々とTo BでもTo Cでも新たなサブスクリプションビジネスが生まれている。近い将来、ほぼ全てのサービスが月額課金制になるだろう。

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未上場のSaaS企業336社をベンチマーキング。ACVによって変わっていく営業戦略

2016年10月 Pacific Crest が発表した、未上場SaaS企業336社を対象に行ったアンケート調査の結果をまとめた資料が興味深かったので、要点をまとめてみたいと思う。
まずこの調査に参加した企業について:

  • 75%は北米を拠点としている企業
  • 社員数15名以下で年間売上$750K (約8400万円) 以下の会社から、社員数500名以上、売上$100M (約112億円) 以上まで、企業規模はさまざま
  • 年間売上の中央値は$5M(約5.6億円)で、社員数の中央値は50人ほど

従業員1人あたりの年間売上の中央値は$130K: これは売上$2.5M(2.8億円)以下の企業を除いた中央値。従業員1人あたりの売上は、年間売上$15M~$25M(16.8億円~28億円)の企業で$133K(1500万円)、年間売上$100M(112億円)以上の企業で$214K(2400万円)になる。

平均年間成長率の中央値は35%: 平均成長率が60%を超えるのは、年間売上$7.5M〜$15M(8.4億円~16.8億円)の企業。これをACV(一顧客あたりの平均年間契約金額)別にすると、ACV$15K〜$25K(168万円~280万円)の企業が一番成長スピードが高く、平均年間成長率の中央値も年間50%になっている。

規模が小さい時はInside Salesが中心、規模が大きくなったらField Salesを中心に: 44%の企業は、年間売上$2.5M(2.8億円)を超えた時点で営業手法を Field Sales にシフトしている。

特に面白いと思ったのはACV別に見たとき。ACVが小さい会社の営業手法は、Inside Sales(会社の外ではなく電話やオンラインで行う営業のアプローチ)やセルフサーブの割合が大きいが、ACVが$25K(280万円)を超えたところから、Field Sales(会社の外に出て潜在顧客と直接会う営業のアプローチ)が中心になっていることが分かる。

マーケティングとセールスとの内訳は7:3 : CAC(顧客獲得コスト)の内訳を見ると、マーケティング(マーケティングの人件費も含まれる)のコストはCACの30%、そしてセールス(営業メンバーの人件費も含まれる)のコストがCACの70%。この比率は、営業手法に関わらず同じ結果だった。

CACの回収期間の中央値は18ヶ月: 一顧客にかかった獲得コストを回収するまでには、18ヶ月間かかっている。なお一般的に望ましいとされている回収期間は、ACV$12K (134万円)未満の場合が6ヶ月以内、ACV$12K〜$50K(134万円〜560万円)の場合は12ヶ月以内、そしてACV $50K(560万円) 以上の場合は24ヶ月以内と言われている。

年間グロスチャーンの中央値は8%: 年間グロスチャーンをACV別にみた場合、ACV$5K (56万円)以下の場合17.5%(月次1.46%)、ACV$250K(2800万円)以上だと3.3%(月次 0.27%)。このことから、ACVが上がるにつれて年間退会率が低くなっていることが分かる。

以上が Pacific Crest のレポートで僕が注目したポイントのサマリー。特に注目したのは、ACVによって営業手法や戦略、退会率、そしてCACの回収期間が変わるところだ。

十分なサンプルサイズになってきたら将来、日本のSaaS企業に絞ったレポートもまとめて見たいと思う。

※ Pacific Crestのレポートの全内容は、ここから ダウンロード できる。
※ グロスチャーンをはじめSaaSの重要キーワードリストはこちら。

為替レートは、2月26時点 $1=112円で換算

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注目SaaS企業20社のウェブサイトを見て分かったこと

Intercom、Workday、Gainsight、Salesforceなど注目の北米SaaS企業20社の料金ページとプロダクトページを見ていて、気づいたことをまとめてみようと思う。

提供しているプロダクトの数は平均して5つ
20社のSaaS企業が、平均して提供しているプロダクト・ソリューションの数は5つ。ShopifyやSurvey Monkeyのように、シングルプロダクトを提供していた企業はたったの3社。多いケースでは、Salesforceが20以上、Atlassianが12以上のプロダクトを提供していた。

70%の企業が、複数部署に展開できるプロダクトを提供している
例えばAtlassianでは、エンジニア向けのプロダクトだけでなく、カスタマーサービス向けのツールやプロジェクトマネージメント用のツール、複数の部署でも横断して使うことができるコラボレーションツールを展開している。このように、部署別に広くプロダクトを展開している企業が20社中14社。約70%を占めている。

45%がフリートライアルを提供、20%が無料プランを提供
SurveyMonkeyやBoxのように、セルフサーブ型の無料プランを提供している企業の多くは、そのプロダクトを1人で使っていても、そのプロダクトの価値を感じてもらえるサービスやプランを用意している。

一方で、BetterworksやGustoのように、フリートライアルを提供している企業は、複数人又は会社全体規模で導入されないと、プロダクト自体の価値を得られないというソリューションがほとんどだった。

料金を記載していなかった企業が45%
WorkdayやVeeva Systemsのように、大手企業を主なプロダクト提供先としている企業は、サービスプランや料金情報を掲載していないケースが多い。また、エンタープライズプランを提供していた企業の70%が料金を表示せずに、営業担当者への問い合わせを必須にしている。

平均して3.8個の料金プラン
複数の料金プランをサイトに掲載している企業は、平均して3.8個の料金プランを掲載している。これら企業は、SMBからエンタープライズまで、様々な企業規模の顧客を対象としてサービスを提供している企業がほとんど。

1人ユーザーあたりの月額単価は、平均して116ドル
料金プランをサイトに公開している会社のなかで、従業員数毎に課金しているケースを見てみると、低いところではGustoが1人当たり毎月6ドルを課金していて、高いところではSalesforceのSales Cloudが毎月1人300ドルを課金している。

以上がSaaS企業20社のサイトを見て分かったこと。

これらの内容から僕の見解をまとめると:
複数のプロダクトを出すことによっていくつかの戦略を取れるようになる。
1つは、企業への導入ポイントを増やせること。例えばHubspotの場合、セールスやCRM、マーケティングソフトなど、異なるビジネスニーズにフィットするプロダクトを展開することで導入ポイントを増やしており、Atlassianは、エンジニアやプロジェクトマネージャーが使うツールを複数展開して導入ポイントを増やしている。
もう1つは、複数の部署を巻き込めること。導入先企業が、複数の部署をまたいでプロダクトを使うことでロックイン(依存性)が高まる。例えばAppDyinamicsでは、ITスペシャリストやエンジニアが集まる部署だけでなく、経営企画やマーケティング関連の部署にもプロダクトを展開することによって、サービスへの依存性を高めている。

対象顧客の規模やサービスの特徴によって適切な対応手法が変わる。
1人で使っていてもそのプロダクトの価値を感じられるならば、セルフサーブや無料プランの提供でもサービスを拡めていくことができるだろう。でも、まとまった人数での利用、またはデータの蓄積が必要になるプロダクトで、大規模な導入となる場合は営業プロセスが複雑になるため、営業メンバーからの説明を必須にしたり、無料トライアル期間を設定することで、導入に繋がる確率をあげていく。

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